プロセス化学の反応熱解析

以前から安全性への配慮はプロセス化学の開発における不可欠の要素であり、安全性の概念も、パイロットプロセスや大規模プロセスの設計を通じて常に発展してきました。CSB、OSHA（米国）、HSE（英国）、EU-OSHA、EPSC（EU）、IPE、中国の国家安全生産監督管理総局（SAWS）などの業界団体や連邦当局は、化学/製薬業界に対し、安全な製造を保証する規制への準拠を求めています。 これらの指令は、化学/製薬業界における事故を未然に防ぐことに重点を置いています。

熱的リスク評価では、物質の特性を表す主要な化学データだけではなく、プロセス自体に関する情報も必要です。多くの熱的物性情報の中で、反応熱は、安全なプロセスに関する情報を導き出し、プロセスの安全性に関する知識を構築するために使用できる非常に重要なパラメータです。プロセス化学の安全性評価に関する知識の構築とは、望ましい反応と、考えられる望ましくない反応の両方を理解することを意味します。望ましくない反応の場合は、暴走反応に繋がる可能性のある副反応や逐次反応を主に特定しますが、望ましい反応では、通常の動作条件下での反応挙動を調べます。

出発物質の蓄積、反応熱、反応エンタルピー、比熱は、希望する反応の冷却不良シナリオを作成するために必要となる主要なパラメータの一例です。ただし、最悪のシナリオ、クリティカリティークラス、クリティカリティーマトリックスの評価などのさらに高度な研究では、反応熱の情報も同じように使用します。

反応熱の計算は、関係するすべての反応物の標準生成熱に基づいて行います。しかし通常は、ヒートフロー反応熱量計などの反応熱量計を使用し、時間をかけて熱発生を測定することで反応熱を求めています。

反応熱の測定には、全体的なヒートフロー収支の知識が必要であり、リアクター壁面を通るヒートフロー、基質または溶媒の添加で交換される熱の量、温度の増減により蓄積される熱などが含まれます。

熱発生速度と反応熱からは、時間の関数としての熱の放出に関する情報が得られます。一方、反応熱エンタルピーは、反応の開始から終了までの反応熱の傾向を積分することで求めます。個別のヒートフローの項はいずれも全体の熱収支に関連するため、可能な限り正確な値が得られるよう慎重に求める必要があります。

30年以上にわたり、RC1は反応熱量測定のゴールドスタンダードであり続けており、RC1は高い信頼性を確立しています。RC1mxは、その前世代の製品を土台にしながら利便性を高め、経済的に実行可能な最適化された盤石なプロセスの迅速な開発を可能にします。

• 等温プロセスの理解
  等温（急速昇温）条件または非等温条件の下で、熱力学データを迅速かつ正確に測定します。
  
• ヒートフロー反応熱量測定 – 高い信頼性
  ヒートフロー反応熱量測定は外部の影響に強く、プロセス条件下において正確、的確に熱の発生を測定します。
  
• 真の反応熱の測定
  「真の」反応熱の測定は、化学反応の経過、またその速度論や潜在的な危険性を理解する上での基準となります。

熱特性から見た反応率は化学プロセスの開発に必要な情報で、時間に応じた部分反応熱と全体的な反応熱との関係を表します。熱特性から見た反応率の計算は反応中に放出される熱のみに基づいており、反応物から生成物への化学的な変換に基づく反応率とは対照的です。

反応終了時の熱から見た反応率は常に100%ですが、化学的な変換による反応率はこれよりも低い場合があり、プロセスパラメータの選択に応じて変わります。実際に、化成品開発の目的は、反応物のできる限り高い反応率を達成し、できる限り高い収率を得ることにあります。

インラインFTIR分光法などのリアルタイム分析との組み合わせによる反応熱量測定は、反応熱、ヒートフロー、比熱、またはヒートトランスファーなどの熱力学的情報を同時に測定しながら、化学反応の進行、反応物の反応率、生成物や副生成物、中間体の形成を研究するための適切な方法です。

RC1から得られる情報（例: 反応熱、熱容量、熱発生速度）により、確立されてはいるが難しいプロセスが最適化され、きわめて短期間で大規模に実装されてきました。パイロット段階が不要であったため、最適化により約7万ドルの節約という成果が得られました。さらに、手ごろな価格の装置とより大きなバッチサイズにより、年間5万ドルの製造コスト節約を実現しました。

インドール合成の両ステップ、フェニルヒドラゾン合成とそれに続くフィッシャー閉環をRC1反応熱量計で評価しました。 

評価の対象は、主に熱発生速度、反応熱、ヒートトランスファー、さらに上記の情報に基づいた反応温度の影響と以降の段階における添加速度の影響に絞られました。実験データに基づいて、温度や添加速度、さらにプラントリアクターでの作業に必要な時間と冷却パフォーマンスを推定できました。既存のプロセスを修正して実質的に添加制御式にできたことで、製造スケールでの安全性が向上し、高額な安全対策の必要性を大幅に解消できました。

以下は反応熱または反応エンタルピーについて解説している主な専門書です。

• Agosti, A., Bertolini, G., Bruno, G., Lautz, C., Glarner, T., & Deichtmann, W. (2017). Handling Hydrogen Peroxide Oxidations on a Large Scale: Synthesis of 5-Bromo-2-nitropyridine.Organic Process Research & Development, 21(3), 451–459. https://doi.org/10.1021/acs.oprd.6b00433
• Changi, S. M., & Wong, S. W. (2016). Kinetics Model for Designing Grignard Reactions in Batch or Flow Operations.Organic Process Research & Development, 20(2), 525–539. https://doi.org/10.1021/acs.oprd.5b00281
• Glotz, G., Knoechel, D. J., Podmore, P., Gruber-Woelfler, H., & Kappe, C. O. (2017). Reaction Calorimetry in Microreactor Environments—Measuring Heat of Reaction by Isothermal Heat Flux Calorimetry.Organic Process Research & Development, 21(5), 763–770. https://doi.org/10.1021/acs.oprd.7b00092
• Lakshminarasimhan, T. (2014). Predicting 24 and 8 h Adiabatic Decomposition Temperature for Low Temperature Reactions by Kinetic Fitting of Nonisothermal Heat Data from Reaction Calorimeter (RC1e).Organic Process Research & Development, 18(2), 315–320. https://doi.org/10.1021/op400301f
• Mitchell, C. W., Strawser, J. D., Gottlieb, A., Millonig, M. H., Hicks, F. A., & Papageorgiou, C. D. (2014). Development of a Modeling-Based Strategy for the Safe and Effective Scale-up of Highly Energetic Hydrogenation Reactions.Organic Process Research & Development, 18(12), 1828–1835. https://doi.org/10.1021/op500207r
• Wang, J., Huang, Y., Wilhite, B. A., Papadaki, M., & Mannan, M. S. (2018). Toward the Identification of Intensified Reaction Conditions Using Response Surface Methodology: A Case Study on 3-Methylpyridine N-Oxide Synthesis.Industrial & Engineering Chemistry Research, 58(15), 6093–6104. https://doi.org/10.1021/acs.iecr.8b03773