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熱分析アプリケーションマガジン UserCom 8 (日本語版)

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UserComは、熱分析に関わる研究者向けのアプリケーションマガジンです。

熱分析 UserCom 8(日本語版)
熱分析 UserCom 8(日本語版)

熱分析 UserCom 8内容:

TAのヒント

  • モデルフリー反応速度論に関するヒント

製品情報

  • STARe ソフトウェアV6.0
  • 新しい標準物質
  • 50µm 径孔付クルーシブルリッド

アプリケーション

  • DSC を使った多形解析
  • TMA による薄いポリマーフィルムの膨潤測定
  • ADSC によるエポキシ樹脂の等温硬化中の透化
  • 減圧状態での TGA 測定
  • プラスチック材料のダメージ調査への DSC の応用

DSC を使った多形解析

はじめに

様々な結晶形態で存在する物質は、多形性があるといわれます。すなわち、同じ化合物が異なる物理的 性質を持つ各種の変態として存在する場合がそれに当ります。多形現象に重要性は、所与の化合物の 物性(融点、色相、溶解度、屈折率、硬度、導電率他) 1 つの多形形態と他の物との間で変動するという 事実にあります。しかし、この結晶変態は、融解すると同一の液相になります。 (同素として知られる元素の場合)多形は、硫黄、炭素(グラファイト、ダイヤモンド)、リンのような元素並びに 多数の有機及び無機物質によって示されています。プラスチックもまた、例えば、アイソタクチック ポリプロピレンなどの多形形態で存在することがあります。薬理活性物質の多形形態は、実用上大いに 重要です[1]。個別の多形形態の溶解度及び溶解速度は、様々に異なっているので生体における吸収及び生物学的利用率もまちまちになります[2]。したがって、治療効率は問題の変態によって異なります;例えば、 準安定的な形態は、安定形態の 2 倍の活性を持つことがあります。多形性が重要であるのは、薬理学的効率だけに留まりません;生産、加工及び配合においても重要な役割を果しています。

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参考資料

[1] J. L. Ford and P. Timmins, Pharma- ceutical Thermal Analysis, Ellis Horwood, 1989
[2] D. Giron, J. Pharmaceutical & Bio- medical Analysis, Vol. 4, n6, 755-770, 1986

TMA による薄いポリマーフィルムの膨潤測定

はじめに

ペレット及びタブレットは、活性成分の放出をコントロールする手段として、よくポリメタクリレートなどの不溶性ポリマーの水性ディスパージョンでコートされています。ドラックリリースのメカニズムは、膨潤した膜または水の詰った細孔を通じて薬剤が分散するものと説明できます[1]。この膨潤挙動は、ポリマーフィルムの含水量の 増大の測定、または膨潤プロセスの目視による観察によって特徴づけることができます。両方のケースに おいて、測定し得る変化を得るために比較的厚みのあるフィルムが必要になります。この研究では、薄い ポリマーフィルムの膨潤挙動を直接測定することを可能にする TMA(熱機械分析)を用いた方法を開発しました。 TMA は、正確に定義されたフォースと温度をかけたサンプル長のごくわずかな変化を測定できます。過去に おいて、TMA メソッドを用いて水中のパピルスの膨潤挙動[2]と有機溶剤中のエラストマー[3]が説明されています。

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文献

[1] Knop K. - Influence of buffer solution composition on drug release from pellets coated with neutral and quaternary acrylic polymers and on swelling of free polymer films. Eur. J. Pharm. Sci. 4, 293-300 (1996)
[2] Wiedemann H.G. and Bayer G. - Papyrus, the paper of ancient Egypt Anal. Chem. 55, 1220A-1230A (1983)
[3] Staub F. and Riesen R. - Quellungs messungen an Elastomeren. Mettler Applikation Nr. 3110

ADSC によるエポキシ樹脂の等温硬化中の透

はじめに

エポキシ樹脂の等温硬化においては、この系が粘性液体から極めて高い架橋度の網目構造に変化します。液体状態における反応の硬化速度は、化学的反応速度論で律速されます。架橋度が上がるにつれて、 この系のガラス転移温度(TG)は上昇します。TGが硬化温度Tcに等しくなるとき、この系はガラス状に変化し 透化します。反応中心の運動性は徐々に制約され、反応は拡散律速になります。その結果、反応率は 事実上一定に保たれます[1]。

これまでは、透化までの硬化時間(いわゆる「透化時間」)を、従来型 DSC によるかなり時間のかかる方法で 決定していました。それを実行するには、多数のサンプルを時間の周期を様々に変えて別々に硬化させます。もちろんその硬化温度は関係フォーミュレーションが保持しうる最大ガラス転移温度以下でなければ なりません(一般的には 10℃~50℃未満)。その後、部分硬化したサンプルのガラス転移温度を DSC で 測定します。同時に後硬化ピークを測定して硬化度を決定できます。対応する硬化時間に対するガラス 転移温度からプロットを作成します。透化時間は、これらのデータポイントの最も良好な近似カーブと 使用硬化温度の交点として決定されます。

本論文の目的は、ADSC 手法によって透化時間が直接決定可能であることを立証することです。ADSC の利点は、上記に述べた従来型の方法よりもより正確で迅速なことです。

 

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参考資料

[1] S. Montserrat, J. Appl. Polym. Sci., 44 (1992) 545-554

減圧状態での TGA 測定

TGA 測定は、通常大気圧で実行されます。もちろん TGA カーブのステップは、2 つのプロセスがオーバーラップした結果になるということが起り得ます。例えば、溶剤または可塑剤が、すでに分解を始めたポリマーと同時に蒸発することもあります。場合によっては、手動もしくは自動(MaxRes)で昇温速度を変える ことで、オーバーラップしたプロセスを分離できます。それが不可能な場合のもう一つの方法が減圧下での 測定です。それを以下で詳しく説明します。大気圧は、分解反応の過程にほとんど、または全く影響を 及ぼさないのが一般的ですが、蒸発を伴うプロセスについては事情が異なります。そのような場合には、 圧力の減少が蒸発プロセスを低い温度にシフトします。したがって、減圧下で熱天秤を使って作業すれば、 2 つのオーバーラップした効果(一方は蒸発プロセス、他方は分解反応)を分離可能なはずです。しかし、 熱天秤内を減圧しながら正しく測定するにはどうすればよいでしょう?

 

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プラスチック材料のダメージ調査への DSC の応用

プラスチック成分のダメージ分析または製造時の問題の調査にとって、示差走査熱量分析(DSC)は熱重量分析(TG)とともに最も重要な熱分析手法です。この手法によってダメージの発生原因の特定や排除ができます。これは、赤外線分光法、粘度測定及び機械的検査などの他の手法による結果の解釈に 役立ちます。受入品の品質保証の一環として DSC 測定を日常的に実行していればダメージを回避できることがよくあります。場合によっては、DSC 測定の結果から受入管理項目に DSC を加えることになったケースも ありました。ダメージ分析では、主に以下の問題を調査するために DSC が使用されます:

 

  • プラスチック部品が所定のポリマーから作られているか?
  • 注文通りのタイプのペレットが配達されたか?
  • 何か別の種類のプラスチックがその材料に混入していないか?
  • 部品の中に内部応力が「凍結」していないか?
  • そのプラスチックが加工中に熱によるダメージを受けていないか?
  • その材料が十分に安定化されているか?
  • その材料が完全に硬化しているか?

そこで、本稿では DSC がこの種の作業で果す重要な役割を説明するために、重要な例をいくつか考察してみることにします。

全ての測定で標準センサー付の DSC20 測定セルと TC10A コントローラーを 使用しました。サンプリングには、ピアスドリッド付標準アルミニウム製クルーシブルと窒素または空気パージを用いました。昇温速度は通常 10K/分でした。関係する問題によってサンプル重量は 5mg~25mg の範囲に 及びましたが、特にクルーシブル底面と良好に接触するように注意しました。この作業中は、STARe ソフトウェアによって測定カーブをパソコンにインポートしました。

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文献

[1] J. Vogel „DDK - Einführung in die Messtechnik, Fehlervermeidung“, Thermische Analyse an Kunststoffen - Methoden und Anwendungen, LabTalk-Seminar der Fa. Mettler-Toledo 25.11.97

ノウハウ