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熱分析アプリケーションマガジン UserCom 47 (日本語版)

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UserComは、熱分析に関わる研究者向けのアプリケーションマガジンです。

Thermal Analysis UserCom 47
Thermal Analysis UserCom 47

熱分析 UserCom 47内容

TAのヒント

熱重量およびガス分析、Part 3: TGA/DSC-FTIR

ニュース

  • STARe ソフトウェア V16.10 (データインテグリティ)
  • カールフィッシャー
  • Vsorp – マルチサンプル水蒸気収着

アプリケーション

  • データ保存用途のSe1-xTex混合物の非晶質相のFlash DSC測定
  • TGA-GC/MSによる塗膜内のジメチルホルムアミドの証明
  • カールフィッシャー滴定、TGAとTGAミクロGC/MSを用いた粉粒体の水分量の決定
  • 熱分析における研究室のデータインテグリティの理解

データ保存用途のSe1-xTex 混合物の非晶質相のFlash DSC測定

ここ数十年間、カルコゲナイドガラスは、高い赤外線透過性、強い感光性、高い屈折率などの比類のない物理特性のおかげで 熱心に研究されてきました。現在は、光ファイバー、レンズ、センサーおよび相変化メモリーおよび データキャリア(RW-CD / DVD / Blu-Ray)に使用されています。これらの用途は、可逆的な非晶質相変化に基づいています。このような相転移をSe1-xTex合金で超高速示差走査熱量測定(Flash DSC)で調べました。

はじめに

現在、例えば、スマートフォン、ノートパソコンおよびUSBメモリーなどに情報を保存するためにFlash-EEPROMが使用されていますが、その短所は、特に、最大書き込みサイクルが約106回であるために、寿命が限られていることにあります。

相変化物質(Phase Change Materials、PCM)により、基本的にさらに長い書き込みサイクルが達成されます。

この場合に、さまざまな相の異なる特性が利用されます(非晶質や結晶質など)。考えられる材料区分は、従来のガラス形成要素であるシリコンや酸素をゲルマニウム、ヒ素および重カルコゲン硫黄、セレニウムおよびテルリウムに置き換えたカルコゲナイドガラスです。

カルコゲンPCMの場合、非晶質相と結晶質相の変換(図1)は1011回まで可逆的に行われます[1]。

図1: 細胞の単相変換
図1: 細胞の単相変換

異なる相が特定の長さと強度のインパルスで設定されます。高いエネルギーインパルスを使用する場合、サンプルは強く加熱され、結晶が融解します。

このガラスの場合、重要な冷却速度(結晶化が発生しない場合)は非常に小さいため、インパルス後の急速な冷却時に結晶が形成されません。材料は非晶質のままです。

結晶段階はエネルギーが小さく、パルス幅が広い「低エネルギーインパルス」の使用時に発生します。材料は結晶化温度まで加熱され、非晶質相が結晶質相に変換されます。図1に示したように、相変換は、十分な大きさのデータ密度を達成するために、空間的に限られた狭い領域で行われます。

相変換は非常に迅速に超高速DSCでシミュレーションされます。相変換を研究するためのモデル物質として、次の点に対応するために、SeTe合金が選択されました。

(i) 融解からの急冷による非晶質相への可逆相変換と加熱による再結晶化

(ii) 材料の熱履歴の正確な管理

(iii) 1つのサンプルの繰り返し測定の実施

これにより、この材料の相転換反応速度解析の洞察が得られます。測定はメトラー・トレドのFlash DSC 1を使用して行われました。作業の詳細な説明は、参考資料[2]と[3]にあります。

図2: Se85Te15.の昇温速度3~10 K/sによる昇温カーブ
図2: Se85Te15.の昇温速度3~10 K/sによる昇温カーブ

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参考資料

[1] A. Sebastian, M. Le Gallo, and D. Krebs, “Crystal growth within a phase change memory cell,” Nat. Commun. (2014), 5: 4314.
[2] P. A. Vermeulen, J. Momand, and B. J. Kooi, “Reversible amorphouscrystalline phase changes in a wide range of Se1-xTex alloys studied using ultrafast differential scanning calorimetry,” J. Chem. Phys. (2014), 141, 024502.
[3] B. Chen, J. Momand, P.A. Vermeulen, and B.J. Kooi "Crystallization Kinetics of Supercooled Liquid Ge–Sb Based on Ultrafast Calorimetry", Cryst. Growth Des. (2016), 16, 242–248
[4] G. Ghosh, R. C. Sharma, D. T. Li, and Y. a. Chang, “The Se-Te (Selenium-Tellurium) system,” J. Phase Equilibria (1994), 15: 213–224.
[5] H. E. Kissinger, “Reaction Kinetics in differential Thermal Analysis,” Anal. Chem. (1957), 29: 1702–1706.

TGA-GC/MSによる塗膜内のジメチルホルムアミドの証明

ジメチルホルムアミドは、ポリマーファイバー、フィルムまたは塗膜の製造時によく使用される溶剤です。また、革製品の金型作成に対する殺菌剤としても使用されます。DMFは皮膚と接触して激しいアレルギー反応を引き起こす恐れがあります。この論文では、TGA-GC/MSを使用してDMFを証明する方法およびその濃度を定量化する方法を示します。

はじめに

ジメチルホルムアミド(DMF)は、水およびたいていの有機溶液に混ぜることができる溶剤です。DMFは、繊維(アクリル繊維)の製造時の溶剤として普及し、また塗料用として使われています。がん研究の国際機関はDMFを発がん性があると評価しています。

この論文では、パウダーコーティングの例でこのことを示します。

図1: DMFの質量スペクトル(引用元: NIST化学Webブック(NIST Chemistry Web¬book , http:// webbook.nist. gov\chemisry)
図1: DMFの質量スペクトル(引用元: NIST化学Webブック(NIST Chemistry Web¬book , http:// webbook.nist. gov\chemisry)

実験

測定は、TGA/DSC3+をSRAのメモリインターフェイスIST16およびAgilentのGC/MS(7890 GCと5975C MSD)と接続して実施されました。

さらに予備実験用にTGA/DSC3+をPfeifferのTher­mostar MS GSD 320と接続して使用しました。測定はサンプル質量約100mgで60mL/minの窒素中で行われました。酸化アルミニウム製の150μLサンプルパンを使用しました。

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カールフィッシャー滴定TGAとTGAミクロGC/MSを用いた粉粒体の水分量の決定

熱可塑性樹脂の加工において、使用された粉粒体の水分量は最終製品の品質を大きく左右します。本文ではカールフィッシャー滴定、粉粒体内の水分量をTGAおよびTGAミクロGC/MSを用いて決定する方法を示します。

はじめに

熱可塑性樹脂(ポリエチレン、ポリアミドなど)は生産者である合成樹脂加工会社に粉粒体として輸送されます。粉粒体の製品への更なる加工は、引き続き押出機(プレートやチューブなど半製品の形)または射出成形機で行われます。

どちらのプロセスでも粉粒体はまず液状にされ、続いて圧力下で適当なノズルによって半製品として押し出されるか、型に注入(射出成型法)されます。この方法で合成樹脂のパーツは実質任意の型で生産することができます。粉粒体の押出加工で重要なパラメーターはその水分量です:水分量がわずか0.1 %多いだけでも最終製品の品質は明らかに損なわれる恐れがあります(気泡発生、表面の欠陥など)。

本誌では、カールフィッシャー滴定とTGAを用いたポリマー粉粒体内の水分量の測定方法を示します。ここでは、水分が存在する場合、物質を分解せずに気体流でできる限り短時間のうちに除去できるよう、最適な抽出温度を決定することも重要です。例としてABS粉粒体(ABS:アクリルニトリル・ブタジエン・スチロール)が分析されました。

図1:ABSの滴定曲線とその一次導関数
図1:ABSの滴定曲線とその一次導関数

実験

滴定を用いた水分量の決定には、METTLER TOLEDOのInMoti o n K F P r o サンプルチェンジャーとカールフィッシャー容積滴定(M E T T L E R T O L E D O製V30S)が使用されました。この際、水分量の不明なサンプルは、一定量の乾燥気体流(通常80 ~150 mL/min)で、一定の昇温速度で加熱されます。

サンプルから気体の生成物(水、溶剤、場合によっては分解産物など)が生じた場合、乾燥気体(一般的に窒素または合成気体)と共に滴定セルの中に移送され、そこで滴定されます。この際、カールフィッシャー(KF)滴定を用い、水の他にもKF試薬と反応する他の物質が検出されることがあることに留意する必要があります。

粉粒体ではこれが特に分解産物であることもあります。サンプル由来である水だけが確実に測定されるよう、測定された滴定曲線はいわゆるブランク曲線により修正が可能です。これは空のサンプル用容器を同様の測定プログラムで加熱して測定します。ここでいずれにせよ確認される水分量は、管材料の通気性およびサンプル容器内に残っていた湿気が原因となります。

私たちの例では、1.78 gのABSを10 mL容量のサンプル用容器に充填し、2 K / m i n で4 0 ℃ ~280℃、100 mL/minの窒素で加熱しました。

TGA測定は、METTLER TOLEDO製のT G A / D S C 3 + をミクロGC/MSに連結して行われました。さらにDSC測定もDSC3+によって行われました。これらの測定は、50 mL/minの窒素内において2 K/minの昇温速度で行われました。TGAミクロGC/MS測定用に計量されたサンプル量は446.076 mgでした。

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熱分析における研究室のデータインテグリティの理解

規制検査によって貧弱なデータ管理方法から記録の改ざんまで各種の問題が明るみになることを背景に、製薬業界の中ではデータインテグリティが主要な課題の1つになっています。この記事では規制の背景について検討し、さらにシステムアーキテクチャの問題や規制検査で疑問視されるのを避ける方法について取り上げます。この記事で説明する原則は、医療機器や食品、環境、さらに研究分野で類似の規制や品質標準に取り組む研究室にも関係します。

話題のデータインテグリティとは

今、Good Manufacturing Practice(GMP)の規制対象となる製薬業界の研究室や関連する支援組織で関心が高い話題は、データインテグリティです。この記事では主に規制対象の研究室について考察しますが、データインテグリティは幅広い分野に影響力を持ちます。

ほぼすべての学術研究機関では、科学的な不正を防いで組織自体や上層機関が悪評を受けないように、科学者向けの倫理規定を導入しています。

環境分野の研究室には各種要件を規定した研究室向けの標準があり、上層管理部門の関与によりデータインテグリティの指針や手順を文書化しスタッフにデータの正しい扱いや記録方法を周知徹底するトレーニングを実施するために役立てられています。

この記事は製薬業界に所属するGMP規制対象の研究室を主な対象としていますが、ここで述べる原則は厳しい品質標準や類似の規制の対象にあるあらゆる業界や研究室にも通用します。

データインテグリティは、データ改ざんのスキャンダルにも見られるように研究開発ラボでも課題となっており、例えば2 0 0 2 年のJ a nSchönの事例では結果的に20を超える論文がScienceやNatureなどの科学誌から撤回されました[1]。

規制と警告書

GMP研究室の業務は、次のうち1つ以上の規制に従って作業する可能性があります。

  • 最終医薬製品を対象とする米国の現行GMP(21 CFR 211)[2]
  • それぞれ医療製品および医薬品有効成分を対象とする欧州GMP Part 1とPart 2[3、4]
  • 米国の電子記録・電子署名の最終規則(21 CFR 11)[5]
  • コンピュータ化されたシステムを対象とするEU GMP Annex 11[6]

最初の2つの規制はあらゆる分析業務に適用されますが、コンピュータ化されたシステムを使用する場合に限り最後の2つの規制が関係します。

この記事は熱分析を対象としているため、制御、データ取得、データ処理にコンピュータ化されたシステムを使用する熱分析機器について検討します。

 

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ノウハウ