UserCom

熱分析アプリケーションマガジン UserCom 44 (日本語版)

UserCom

UserComは、熱分析に関わる研究者向けのアプリケーションマガジンです。

熱分析 UserCom 44(日本語版)
熱分析 UserCom 44(日本語版)

熱分析 UserCom 44 内容

TAのヒント

  • カーブの解釈パート7:他のTA技術と組み合わせたDMA測定

アプリケーション

  • DSCと反応熱量測定による窒素反応の安全性分析
  • 耐火性合成ゴム –特性の最適化のための新たなアプローチ
  • UV-DSCによる2価メタクリル酸メチルサンプルの硬化反応
  • 熱分析による口紅とマスカラの品質管理
  • 代用骨としてのリン酸三カルシウムの製造
  • TGAおよびDSCによるポリマー被覆TiO2 粒子の特性分析
  • 熱可塑性ポリマーの特定:DSC 技術による融解分析

DSCと反応熱量測定による窒素反応の安全性分析

安全性は、化学業界でのプロセス開発の重要な側面です。本稿では、化学反応と化学品による危険の可能性をすばやく簡単に判断するために反応熱量測定とDSCを利用する方法を示します。

はじめに

ここ数十年の間に多数の化学事故が発生して、何百人もの死傷者が出て、深刻な環境汚染が生じました。このような事故の原因は多くの場合、プロセスにあります。技術的な問題により、プロセスを管理できなくなり、その結果激しい爆発につながる恐れがあります。本稿では、反応熱量測定とDSC分析を利用して、わずかな費用で化学品とプロセスの熱による安全性を判断するための重要な基礎資料を用意する方法を例を使って説明します。

[…]

耐火性合成ゴム – 特性の最適化のための新たなアプローチ

ケーブルやシールのような多くの用途において、ゴム配合物は、優れた機械的特性と良好な耐燃性特性の両方を有していなければなりません。この記事では、難燃性をTGA測定でどのようにして容易に求めることができるのか、機械的および熱重量測定の組み合わせを使用して特性を最適化するかを示します。

はじめに

耐火性合成ゴムを開発する場合、混合成分の適切な選択と組み合わせにより、多数の特性が最適化する必要があります。従来の複合技術では、耐火性を向上させるために、不活性充填剤に非常に重点を置いています。ただし、これは機械特性には常に負担になります。

以下では、耐火性能も機械特性も向上させる物理的に動機付けられたコンセプトを紹介します。

[…]

UV-DSCによる2価メタクリル酸メチルサンプルの硬化反応

光重合は今日広く普及したプロセスです。システムは特に歯科分野などの医療分野、接着またはコーティング、さらに新しいところでは、3D印刷でも利用されています[1]。この例では、UV硬化2価サンプルの硬化挙動を調べました。

はじめに

サンプルが加熱されて重合または硬化が始まる熱重合のほかに、光重合もあります。この場合、光線によっていわゆる光開始剤が刺激されて、ラジカルまたはイオンを形成し、これが重合を誘導します[2,3]。

この種の重合は低温で発生し、急速に進行します。メタクリル樹脂の光開始剤としてDMPA(2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、図1を参照)がよく使われます。

本稿では、2-価サンプル(メタクリル樹脂)の光重合をDMPAで分析します。図1は、極端な光開始剤として作用するDMPAの構造式を示しています。そのような光開始剤として、DMPAは、適切な波長の光が作用すると、特にメチルラジカル(CH3)に分解されます。これは、架橋材料(この例ではメタクリル酸メチル分子)でC-C二重結合に作用し、これにより重合が開始されます。2つのラジカルが相互に作用する、重合が中止されます。ラジカル連鎖開始剤が形成されず、UVランプがオフになることによって光重合も簡単に中断されます[3]。

[…]

参考資料

[1] Wikipedia.
[2] Kunsstoffkompendium, Adolf Franck, Bernd Herr, Hans Ruse, Gerhard Schulz, Vogel Verlag.
[3] Photopolymerization kinetics of multifunctional monomers, Ewa Andrzejewska, Prog. Polym. Sci. 26 (2001), 605–665.

熱分析による口紅とマスカラの品質管理

今日、多くの 種類の 口紅とマスカラ が市販されています。これらの製品の重要な 特徴は、長時間持続する作用が あること、簡単に使用でき、また簡単に 除去できること、および物理的にも化学的にも安定していて、皮膚を刺激しないことです。口紅に含まれるワックス とオイルは 、簡単な用途に信頼性があり、すすは顔料 として マスカラに 使われることが よくあります。熱分析技術を利用して、この種の化粧品の 品質を 確認 することができます。

はじめに

化粧品市場では、口紅、マスカラ、毛髪染料、クリームの需要が増大しています。化粧品は調合が複雑で 、このためこれらの製品の 品質を保つには、継続的な監視 が 必要です。

以下のアプリケーション例では、さまざまな種類の 口紅と マスカラを DSCおよびTGAを使って分析しました。

[…]

代用骨としてのリン酸三カルシウムの製造

リン酸三カルシウム(TCP)は、セメントまたはインプラントとして幅広く利用されている代用骨材の主要成分です。本稿では、TGA-DSCおよびTMAを利用して、リン酸三カルシウムの合成およびさまざまなTCP多形体を分析する方法を説明します。

はじめに

骨は化学的に見ると、約60 %がリン酸カルシウムでできています。このため、合成リン酸カルシウムを代用骨材として使用できます。合成骨材は、セラミック骨インプラントの製造や骨の欠損の解消に使用されます。

代用骨材で特に重要な点は、体内で新しく形成される骨に吸収可能なことです。そのためには、代用骨材の生体適合性が前提条件となります。リン酸カルシウムには、バイオセラミックとして、たいていヒドロキシアパタイト(HA)、アルファリン酸三カルシウム(α-TCP)、ベータリン酸三カルシウム(β-TCP)または二相リン酸カルシウム(HA+ β-TCP)が使用されています。

ヒドロキシアパタイトは最も吸収が遅く、非常に高い安定性を示しています。これに対して、αと β-TCPは身体固有の骨材に溶けやすく、このことが再吸収速度を高め、治癒プロセスを短縮します。このため、α-TCPとβ-TCPは、例えば、歯のインプラントや[1]セラミック骨インプラント[2, 3]で使用される骨の欠損を埋める骨材セメントの主要成分によく使われます。

本稿では、TCPの合成および位相挙動をTGA/DSCおよびTMAを使用して分析する方法を示します。

TCP製造の原材料は、リン酸水素カルシウム(CaHPO4)と炭酸カルシウム( CaCO3)の式(1)に基づく当量混合です。

2·CaHPO4 + CaCO3 → Ca3(PO4)2 + (1) H2O + CO2

[…]

 

参考資料
[1] Constantz B. R., Ison I. C., Fulmer M. T., Poser R. D., Smith S. T., Wagoner M. V., Ross J., Goldstein S. A., Jupiter J. B., and Rosenthal D.I., Science 267, 1796 (1995).
[2] Langstaff S., Sayer M., Smith T. J. N., Pugh S. M., Hesp S. A. M., and Thompson W. T., Biomaterials 20, 1727 (1999).
[3] Wang J. X., Chen W. Q., Li Y. B., Fan S. J., Weng J., and Zhang X. D., Biomaterials 19, 1387 (1998).

TGAおよびDSCによるポリマー被覆TiO2粒子の特性分析

塗料でポリマー結合剤を二酸化チタンなどの親水性顔料と一緒に使う場合、あらかじめ、顔料を結合剤と互換性のあるポリマーで被覆する必要があります。そうしないと、接着が弱いために、結合剤と粒子の間に大きな塊が生じて、これがフィルムを破って、その結果、塗料の層に亀裂が生じる場合があります。本稿では、二酸化チタンの例で、TGAとDSCを使用して被膜の重要な特性を求める方法を示します。

はじめに

塗料は基本的に顔料、結合剤および溶剤で構成されています。さらに、塗料の多くの固有の特性(乾燥時間、流動作用、UV安定性、艶など)を生み出す多彩な添加剤があります。結合剤によって、顔料が溶剤の乾燥後に薄い膜として、下地に結合されます。結合剤としては、たいていの場合、ポリマーが使用されます(アクリレート、ポリウレタン、ポリエステル、メラミンなど)。

ポリマー結合剤を二酸化チタン(TiO2)などの親水性顔料と一緒に使うと、接着が弱いために、結合剤と粒子の間に大きな塊が生じて、これがフィルムを破って、その結果、塗料の層に亀裂が生じる場合があります。これを防ぐために、粒子をあらかじめ結合剤と互換性のあるポリマーで被覆します。

本稿では、二酸化チタンの例で、TGAおよびDSCを使用して、被膜の特性(熱安定性、層の厚みに対する重合の影響、ガラス転移温度)を求める方法を示します。

[…]

熱可塑性ポリマーの特定: DSC 技術による融解分析

現実の多くの用途では、ポリマーの迅速で確実な特定が重要です。この章では、DSCの融点測定によって、半結晶ポリマーを特定する方法を示します。

はじめに

熱可塑性物質は、マクロ分子で構成されます。融解中に分子は、無作為にからみあっています。アモルファスポリマーは、ガラス転移よりも低い温度では固体状態です。この場合、分子の配列は融液時と似ています。半結晶の熱可塑性物質には、アモルファス相のほかに結晶相もあり、その相では分子のセグメントはほとんど並行に配列しています。

その結晶の融解が、DSC 曲線では幅広い融解ピークにつながります。結晶は比較的小さく、アモルファスな領域に囲まれています。結晶の折り畳み面近くの分子セグメントは動きが制限されるため、対応する構造は、リジッドアモルファスとして示されます。この部分は、DSC 測定曲線で直接検知されません。このアモルファスな部分に加えて、ガラス転移を示す可動アモルファス部分もあります(図 1 を参照)。

昇温時に、結晶部分は一定温度で融解するのではなく、ある融解範囲で融解します。結晶の融解温度は、結晶の大きさによって異なります。小さな結晶は、大きな結晶よりも低い温度で融解します。 

結晶の大きさはさまざまなので、ポリマーには常に一定の温度範囲で融解します。これが、DSC 曲線の比較的幅の広いピークの原因にもなっています。ピークは、ピーク温度とピーク幅で特徴づけられます。

[…]