UserCom

熱分析アプリケーションマガジン UserCom 40 (日本語版)

UserCom

UserComは、熱分析に関わる研究者向けのアプリケーションマガジンです。​

熱分析 UserCom 40(日本語版)
熱分析 UserCom 40(日本語版)

熱分析 UserCom 40内容

TAのヒント

  • カーブ解釈 Part 3: DSC測定と他の熱分析技術との複合分析

アプリケーション

  • DSC 測定による金属間化合物層の成長の特性分析
  • DSC およびDMAによる形状記憶合金の特性測定Part 1: DSC による測定
  • ゴムボールの跳ね返り挙動の研究
  • TGA/DSC と質量分析計との連結によるバイオマスの特性分析
  • 熱安全性判断のための DSC による断熱曲線の最大発熱速度までの時間(Time-to-Maximum-Rate)の判定
  • イオン溶液中の水分率測定

DSC測定による金属間化合物層の成長の特性分析

はんだおよび銅サンプルパンのDSC測定により、はんだ付けおよび焼き戻しプロセスにおけるはんだと銅の金属間化合物層の形成を分析する方法を示します。マイクログラフで1回キャリブレーションした後に、DSC 測定から金属間化合物層の厚みを求めることができます。

はじめに

マイクロエレクトロニクスでは、はんだ付けは電子部品をプリント基板の導体に接続するためによく使われる接続技術です。はんだ付けのプロセス自体は5000年前から知られています [1]。

はんだ付けでは低温で融解する合金は相手の金属に接続し、1つ又は複数の部品を融解/凝固プロセスで互いに接続します。はんだと部品の間の中間層(英語では金属間化合物(IMC))が発生することがはんだ付けプロセス中に接続が形成される明らかな兆候となります[2]。

IMC の発生の前提となるのは、合金形成に関わる反応パートナー間の拡散プロセスです。この論文では銅に接触する錫ベースのはんだ合金で、このプロセスについて調べます。

はんだ付けの際には2つの領域間に金属間化合物相が形成されます。銅の層にある領域は銅を豊富に含むCu3Sn相です。はんだ側には、錫を豊富に含む Cu6Sn5 相があります。図 1 に示すように、これらの領域の形成を金属組織断面図で確認できます。

図 1. 焼き戻ししたはんだ部分の金属組織断面図
図 1. 焼き戻ししたはんだ部分の金属組織断面図

IMC の形成に必要な拡散プロセスは温度に依存します。拡散プロセスの活性化エネルギー ΔE はわずかなので、融解時だけでなく、凝固後の固形段階でも発生します。

その結果、はんだ付けの際には、IMC の厚みが増えることがわかります。

はんだ付けの後にはんだ接続を確実にするには、IMCの厚み y の知識が必要です。たいていの場合、中間層ははんだ付けに関わる合金パートナーよりも脆いので、IMC をあまり厚くすることはできません。厚くした場合には、接続箇所に機械的な張力がかかるからです [3]。

[…]

参考資料

[1] D. Shangguan, Lead-free solder interconnect reliability. ASM International, Materials Park, OH (2005).
[2] V. I. Dybkov, The growth kinetics of intermetallic layers at the interface of a solid metal and a liquid solder, JOM (2009) Doi:10.1007/s11837-009-0015-9.

DSCおよびDMAによる形状記憶合金の特性測定Part 1: DSC による測定

形状記憶合金で製造された物質は、加熱することで変形させる前の決まった形状に戻すことができます。この現象が、形状記憶と呼ばれます。さらに、形状記憶合金製の物質は超弾性を示します。大きく変形した対象物が変形を引き起こす負荷がなくなることで元の形状に戻る特性をそのように呼びます。この記事ではこの特性を説明し、DSC と DMA によって分析する方法を示します。

はじめに

形状記憶合金 (Shape memory alloys、SMA)で製造された物質は形状記憶効果と超弾性という 2 つの興味深い特性を示します。形状記憶合金から製造された物質は、加熱による可塑的な変形により「原形」に戻すことができます。

対象物を10% まで変形した後に、引き伸ばすストレスがなくなると「原形」に戻る場合にその性質を超弾性と呼びます。

これら 2 つの効果が現れるには、材料にあらかじめ「原形」を記憶しておく必要があります。

図 1 に形状記憶効果と超弾性を図式的に示します。

 

図 1形状記憶合金の挙動; 左: 形状記憶効果; 右: 超弾性
図 1形状記憶合金の挙動; 左: 形状記憶効果; 右: 超弾性

形状記憶合金としてよく知られているのは、ニッケル - チタン合金、CuZnAl (銅 –亜鉛- アルミニウム)、CuAlNi (銅 - アルミニウム - ニッケル) 、CuAlBe(銅 - アルミニウム - ベリリウム) などの銅合金です。最もよく利用されるニッケル - チタン合金は、1960 年代の初めに、米国国防省海軍武器研究所 (U.S. Naval Ordnance Laboratoy)で開発され、ニチノール (Nitinol = Nickel-Titanium Naval Ordnance Laboratory) の名前で製品化されました。

ニチノールは、非常に高い耐腐食性、生体適合性、形状記憶効果および超弾性のすべてを備えています。 このような特性により、ニチノールは航空宇宙業界、自動車技術、電子機器や医薬品技術に使用されています。

具体的な用途は、たとえば配管接続部 (パッキングリングは、低温状態で伸び、温めると縮んで適合します)、アクチュエータ、医療用インプラント (ステント) または歯列矯正具などです。

[…]

ゴムボールの跳ね返り挙動の研究

ここに黒と赤の色違いの2つのゴムボールがあります。 この2つのボールは色以外には見た目では違いがありません。しかし、これらのボールを固い床に落とすと、赤いボールはほとんど元の高さまで跳ね上がり、黒いボールはほとんど跳ね返ってきません。 この挙動はどのように説明できるでしょうか?

はじめに

ゴムボールは固い床に落として跳ね返る固有の性質をもちます。本稿ではこの点でかなり違いがある2つのボールについて議論します。

赤いボールは落とすと元の高さの約 86 % まで跳ね返ります。これに対して黒いボールは元の高さの約 2 % までしか跳ね返りません。この挙動は特定の材料物性から予測できるでしょうか。 さらに、その特性をどのようにして測定できるでしょうか。

ボールの跳ね返り挙動は、ボールの粘弾性に依存します。赤いボールは「弾性的」で、その運動エネルギーは床への衝突時に大部分が変形エネルギーとして保存され、跳ね返りに使用されます。

これに対して、黒いボールの場合、変形エネルギーはほとんどが熱に変換されます。そのエネルギーは跳ね返りには使用できず、ボールの跳ね返りは明らかに低くなります (図 1参照)

 

図 1:ゴムボールの跳ね返り挙動。黒いボールでは変形エネルギーが主に熱に変換され、赤いボールでは変形エネルギーは床への衝突後に跳ね返りに使用されます。
図 1:ゴムボールの跳ね返り挙動。黒いボールでは変形エネルギーが主に熱に変換され、赤いボールでは変形エネルギーは床への衝突後に跳ね返りに使用されます。

この挙動を説明する材料パラメータが弾性率 (ヤング率) です。 これは、エネルギーを蓄える能力を表す貯蔵弾性率と 材料内で失われるプロセスを表す損失弾性率の 2 つの要素から成ります。 貯蔵弾性率と損失弾性率の関係は、損失係数または tan δ で示されます。 損失係数により、2つのボールの熱に変換されたエネルギー が、次の式に基づいて見積もることができます [1]。

2 つのボールの跳ね返り実験から、この比率は 0.14 でした。つまり、床に衝突したときに黒いボールでは、赤いボールよりも約 7 倍エネルギー損失が大きいことになります。

[…]

参考資料

[1] C. Wrana, Introduction to Polymer Phyiscs, Lanxess AG, 2009, ISBN 978-3-941343-19-1.

TGA/DSC と質量分析計との連結によるバイオマスの特性分析

最近10年の間に持続可能で再生可能なエネルギーへの転換が起きています。そのきっかけは、化石燃料資源がますます減少していることと、原子力施設を稼働する際の問題が解決されていないことです。代替または再生可能エネルギーは広範囲に及びます。風力エネルギーや太陽光発電のほかにバイオマスもエネルギーを生み出す重要な可能性の 1 つです。バイオマス分野の 2 つの例で、熱分析によってバイオマスの特性の可能性を示します。この例では、TGA/DSCと質量分析計を連結し、複合測定を行いました。

はじめに

バイオマスとは、エネルギーを取り出すことができる、再生有機材料のことを言います。バイオマスには、木材、麦わら、トウモロコシ、ユーカリ、菜種、サトウキビおよびその他の化石原料でない製品が含まれます。

いずれにしても、バイオマスをエネルギー源として利用する前に、適切な準備が必要です。その際に、バイオマスを気化、液化または固体化する必要があります。そのためにさまざまな複雑な手順があります [1]。

この記事の中では、トウモロコシとユーカリのバイオマスが TGA/DSC および質量分析計(MS)を連結したTGA/DSC を使用して、分析されました。

ここでは、水分含有量、乾燥重量および発生気体の種類を特定することが課題でした。

[…]

参考資料

[1] Thomas Bührke, Roland Wengenmayr: Erneuerbare Energien- Konzepte für die Energiewende, Wiley-VCH, 3. Auflage 2011.

熱安全性判断のための DSC による断熱曲線の最大発熱速度までの時間(Time-to-Maximum-Rate)の判定

化学プロセスで生じる可能性のある危険の特定と判断は、重要な意味を持つ課題です。これは、実験室スケールでも生産環境でも化学反応を開発し、管理するための前提条件となります。化学的な事故が、管理機能の喪失や誤った取り扱いにつながることがよくあります。その結果、多くの場合、いわゆる暴走反応(Runaway reaction)が発生し、爆発につながる恐れがあります。

はじめに

製品を開発する場合、危険の可能性を早期に認識することが非常に重要です。その際に、DSC 技術が役に立ちます。化学変換の反応エンタルピーや反応速度を迅速に測定するために必要なサンプル量がごくわずかですむからです。

このことに関する量的な基準として、最大断熱温度上昇および最大発熱速度までの時間(Time-to-Maximum-Rate = TMR)を挙げることができます。これらの基準は、物質またはプロセスが熱的に不安定になる、または熱暴走により、例えば爆発の危険が生じる条件を 記述するものです。

化学反応の反応速度は、各温度プロファイルの下での発熱挙動を予測するために使用されます。このプロセスは、化学結合や化学プロセスのリスク分析ではよく知られています。この場合に最大の目標は、安全な作業環境を作り出し、リスクを最小限に抑えることにあります。

リスク分析を行って、特定の安全レベルを維持し、管理戦略を適用するための実務と措置を導入することができます。

リスクプロファイルは、たいての場合許容できない状況に照らして受け入れ可能なシナリオを分類するための基礎となります。このようなプロファイルは、一般的な内容で書かれて、重大度や蓋然性と結び付けられています。

[…]

イオン溶液中の水分率測定

水分率はイオン溶液の重要な品質指標です。この論文では、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムメチルスルフェートを熱重量測定装置と質量分析装置を組み合わせたTG/MSで水分率を決める方法を示します。本実験結果は滴定測定を用いて比較を行いました。

はじめに

イオン溶液とは、室温で液体状になっている塩のことで、多くの用途できわめて魅力的な数多くの特性を示します。例えば熱安定性が高く、導電性、不燃性、不揮発性で、比較的高い熱容量を示し、多くの物質に対して、非常に優れた溶解特性を示します。

このため、多彩な用途に対応しています(燃料電池、バッテリの電解質; 熱流体; 溶剤など)。イオン溶液の品質の重要な指標は、水分率です。この論文では、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムメチルスルフェート(EMIMS、CAS 516474-01-4)の例で、TG/MSを使用して、水分率を求める方法を示します。このようにして測定された水分率は滴定測定の結果と比較を行いました。

[…]

ノウハウ