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熱分析アプリケーションマガジン UserCom 38 (日本語版)

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UserComは、熱分析に関わる研究者向けのアプリケーションマガジンです。​

熱分析 UserCom 38(日本語版)
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熱分析 UserCom 38内容

TAのヒント

  • カーブ解釈 Part 1 : 実験条件のバリエーション

ニュース

  • 水分計
  • サービス・サポート
  • ProUmid 提供の SPS 吸着分析機器
  • 新しい Excellence 顕微鏡用ホットステージ

アプリケーション

  • Flash DSC による2つの ポリプロピン(PP)サンプルの区別
  • TGA(熱重量分析)を用いた蒸気圧と気化エンタルピーの同定
  • TOPPEM® 測定のポリ乳酸(生分解性プラスチック)への応用
  • 湿度調整器を接続したTGA/DSC 1 によるゼオライトの吸着挙動の分析
  • オイルに含まれる僅かな濃度のワックスのDSC 分析

Flash DSC による2 つのポリプロピレン(PP)サンプルの区別

半結晶性プラスチックであるポリプロピレン(PP)は、金属触媒を用いたプロパンの重合によって製造されます。この場合に、アイソタクチックPP(メチル基が炭素鎖の同じ方向にある)、シンジオタクチックPP(メチル基が炭素鎖の上下に交互に向く)またはアタクチックPP(メチル基の向きはランダム)が生じます。アイソタクチックPPは高結晶化度を示し、アタクチックPP はより非晶質です。またアイソタクチックPP中の結晶はより大きくなる可能性があります。ここでは、異なる製造条件で製造された2 つのPP を比較します。この実験にはDSC とFlashDSC [1] を使用しました。2 つのPP は粒状で、どちらも添加剤は入っていません。

はじめに

ポリプロピレン(PP)の構造式を(図 1に示します。PPは、梱包材やさまざまな消耗品用、繊維、自動車業界、医薬品または配管用の基本材料として広く用いられています。

図1:ポリプロピレンの構造。
図1:ポリプロピレンの構造。

継続的な一定の品質を保証するために、2 つの異なる製造方法がPP サンプルにどのように影響を与えるか、また製品の熱物性が異なるかどうかを知らなければなりません。最終製品の機械特性は実際に明らかに異なっていました。

直径約 3 mm の粒状で提供される2 つの異なるPPの熱物性を DSC で測定しました。

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TGA(熱重量分析)を用いた蒸気圧と気化エンタルピーの同定

化学物質の蒸気圧は、その物質の揮発性の度合いを表すものです。つまり、一定の温度における蒸気圧が高いほど、物質は凝縮状態(液体もしくは固体)ではなく気体である可能性が高いということになります。温度の上昇に連れて、蒸気圧はより高くなります。蒸気圧が周辺環境の全体圧と同じ場合は、沸点に到達したということです。

はじめに

この熱物理学的特性とこれに相当する相転移のエンタルピーに関する知見は、プロセス管理、材料の貯蔵と安定性といった分野にとって根幹をなす重要な要素です。

そのデータは、環境基準の確定や最大許容限界値などに引用され、また安全性データシートを作成する際に不可欠のものとなっています。

工業用に使用するにしても、基礎研究のためにしても、物質の蒸気圧を同定するための簡単な分析方法が必要とされています。この方法はルーチンワークとして用いることができ、信頼性があり、迅速で、実践しやすい方法であるべきです。本稿では、標準物質を用いた熱重量分析(TGA)で行う方法をご紹介します。

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TOPEM® 測定のポリ乳酸(生分解性プラスチック)への応用

結晶化度のあまり高くないポリ乳酸(PLA)を例に TOPPEM®を用いることで 、一回目の昇温過程において重複した熱的現象を分離し、評価できることを示します。

はじめに

1回目の昇温測定の間には、内部ストレスの緩和、再組織化、サンプルとサンプルパンとの間の熱接触の変化等が起こるため、従来のDSC 測定の評価の際にはしばしば問題となることがあります。というのは、ガラス移転、冷結晶化、融解といった熱的事象にオーバーラップする現象が起こってしまう場合があるからです。さらに、サンプル冷却後の再昇温測定は、1 回目の昇温測定の結果を理解する上でいつも役立つ訳ではありません。

これに対し、温度変調DSC 測定(TOPPEM® )は再組織化、ストレスの緩和といった不可逆成分と、ガラス転移のような可逆成分とを分離できます。

微小な温度変調は不可逆成分にほとんど影響を与えませんが、可逆成分にはそれに対応する変調の効果を与えます。

これに基づき、ポリ乳酸(PLA)を原料とする生分解性プラスチック容器について検討を行いました [1]。

以下ではTOPPEM® による1回目の昇温測定からどのような結果が導き出されるのかを示します。

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湿度調整器を接続したTGA/DSC 1によるゼオライトの吸着挙動の分析

ゼオライトの吸着挙動を 湿度調整器を接続したTGA/DSC1により分析できます。最初にサンプルを TGA/DSC 1中で乾燥させ、その後、等温で異なる相対湿度に曝しました。吸着能力は、サンプルの重量変化として測定されます。さらに、吸着エンタルピーも得られました。

はじめに

スウェーデンの鉱物学者Axel Fredrickvon Cronstedt は1756 年に特定の石が加熱すると沸騰したように見え、同時にかなりの量の水蒸気が発生することを突き止めました。

彼はこの「沸騰する石」をゼオライト(Zeoli the ; 語源はギリシャ語で「沸騰する」ことを意味する「zeein」と「石」を意味する「lithos」からの造語)と名付けました[1、2]。

沸騰する石の現象は、ゼオライトの特殊な構造から理解できます。ゼオライトは、結晶格子に広範囲な空孔や溝があり、そこに特殊な外部分子(水、エタノール、アンモニアなど)を可逆的に保存できる結晶性材料です。

そのゼオライトを温めることにより構造を損なうことなく、吸着した分子を再び排出することができます。ゼオライトは吸着/脱着サイクルを何度も繰り返して使用することができます。天然のゼオライトは、酸素原子を介して互いに結合しているような構造の SiO2- および AlO4- 四面体で構成されているため、内部に空孔や溝が生じます(図 1 参照)[3、 4]。

図1:外来分子を取り込める空孔のあるゼオライトの構造 [1] 。
図1:外来分子を取り込める空孔のあるゼオライトの構造 [1] 。

空孔には自由に動ける陽イオン(Na+ など)がある場合が多く、これが他のイオン(Ca2+ など)や自由水などと交換され得ます。現在使用されているほとんどのゼオライトは化学合成により製造されています。

したがって、各用途に最適化された非常に多様な化学組成と空孔の大きさのゼオライトが入手可能です。ゼオライトには多彩な用途があります。

ソーダフッ石(Natrolite)は技術的に見て大きな意味があり、水硬性セメント、製紙時の充填剤、吸着剤、硬水軟化、およびイオン交換物質として使用されます[3]。

モレキュラーシーブ(Zeolite A, Na12[(AlO2)12(SiO2)12]27H2O)などの合成ゼオライトは、さまざまな空孔の大きさのものを入手でき、研究所での乾燥剤や触媒として 使用されています [2]。

さらにゼオライトは粉石けん(硬水軟化剤として)や液体と匂いの両方を吸着するので猫のトイレにも使用されています。

本稿では、ゼオライトの水の吸着挙動を分析します。

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References

[1] Wikipedia, Zeolites, http://de.wikipedia.org/wiki/Zeolites_(Stoffgruppe), http://de.wikipedia.org/wiki/Zeolith_A
[2] Lehrbuch the anorganischen Chemie, Holleman-Wiberg, De Gruyter, 1985
[3] Mineralien and Gesteine, Walter Schuhmann, BLV Buchverlag GmbH & Co KG, 2009
[4] Anorganische Chemie, Riedel, De Gruyter, 1987

オイルに含まれる僅かな濃度のワックスのDSC分析

石油において、ワックス(パラフィン)含有量は重要なパラメータです。粘性のような石油の物理的特性はワックス含有量によって変化します。その上、石油に含まれるワックスは固化し、低温で析出する可能性があります。したがって、品質管理においてワックス含有量を求めることが必要とされています。

はじめに

石油に含まれるワックスで最も多いのはアルキル鎖長n が18 から36までのパラフィンワックス(CnH2n+2)です。この物質の融点は、室温より高い45 ℃ から65 ℃ の間です。

石油に含まれるワックス含有量を求める方法はいくつかあります。

例えば:

  • ワックスの抽出
  • 石油の流動点の測定
  • 石油の曇点の測定
  • 偏光顕微鏡を用いた光学測定
  • NMR

これらの手法には、分析時間が長くかかる、測定のための試薬を使う必要がある、サンプルがたくさん必要、検出限界が比較的低いなどのいろいろな欠点があります。

DSC を用いてワックスの融解挙動を測定することができます。DSC カーブでワックスのピーク解析を行うのは、少量のサンプルでできる簡単な測定方法です。科学文献では、種類の異なるワックスが含まれた石油の系統的な研究を見ることができます[1, 2]。

文献では、低温で液体のワックスと、パラフィンのような室温で固体のワックスの測定方法について、記述されているものがあります。

ワックス濃度が高い場合(> 1%)には、測定は非常に簡単です。本稿では、これとは逆にワックス含有量が微小なサンプルの測定をご紹介します。

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References

[1] Jun Chen, Jinjun Zhang, Hongying Li, Thermochimica Acta 410 ( 2004 ) 23 – 26.
[2] Z. Jianga, J.M. Hutchinson, C.T. Imrie, Fuel 80 ( 2001 ) 367 – 371.

ノウハウ