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熱分析アプリケーションマガジン UserCom 21 (日本語版)

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UserComは、熱分析に関わる研究者向けのアプリケーションマガジンです。​

熱分析 UserCom 21(日本語版)
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熱分析 UserCom 21内容

TAのヒント

  • 熱分析メソッドの開発パート1

ニュース

  • TGA/SDTA85Xe 相対湿度を調節するためのインタフェース

アプリケーション

  • モデルフリー反応速度論
  • 医薬物質の湿気吸着・脱着の同定
  • TGA-MSとTGA-FTIR、重合体添加物とそれらの分解物質の温度安定性調査熱分析メソッドの開発
  • TMA 粉体ディスクガラスの転移温度の同定
  • 脂質・リポソーム相転移

モデルフリー反応速度論

はじめに

化学反応の反応速度論は、DSCまたはTGAによる測定で簡単に得られます。メトラー・トレドSTARe システムの反応速度論のソフトウェアには、3つの異なるオプションがあります: 古典的なn次反応速度論と2つのモデルフリー反応速度論です。

n次反応速度論の基本概念は、活性化エネルギーが全ての反応を通して一定であると仮定していることです。反応率(dα/dt)は次の方程式で求められます。

 

式の中でαは転換率、K0 は指数関数ファクター、Ea は活性化エネルギー、Rはガス定数、Tは温度、そして反応のオーダーはnです。n次の反応は、したがってパラメータn、Ea とK0 によって記述することができます。しかしこのモデルは、単純な反応に適用されるのみです。通常は、いくつかの反応が同時に進行するため、反応が完全に化学的に律則されないようなより複雑な反応においてはこのn次反応速度モデルは有効ではありません。そのような複合反応に対しては、モデルフリー反応速度論解析が必要になります。以下、モデルフリー反応速度論解析がDSCとTGA測定において如何に使用され、対象とする反応(温度・時間、または特定の転換率の相関関係として)が等温挙動についての反応カーブから如何に「予測」をすることができるかについて示します。

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医薬品における水分の吸着と脱着の同定について

乾燥、水分吸着、含水量に起因する物質の挙動は材料と製品の特性に対してしばしばネガティブな効果をもたらすとして重要なトピックとなっています。新しく開発したTGA水分吸着アナライザーシステムにより、それらの情報が容易に得られ、吸着現象を研究する上で非常に便利な方法です。アミロライド塩酸塩の脱水現象を例にしていますが、本技術の長所は次の文献に図示しています。

はじめに

TAユーザーにおける最近の調査で、最近の熱分析における傾向の1つが試料周りのガス雰囲気を制御することであることを確認しました。これは、反応ガスの使用、真空または圧力の適用、または相対湿度(RH)の調節なども含んでいます。特に、一定の相対湿度条件における研究・調査は、ますます重要になっています。本稿は、調剤活性物質を研究するために新しいTGA吸着分析装置システムのアプリケーションについて述べています。芳香/食品業界からのアプリケーション研究は、2003 [1] UserCom 17で発表されています。

相対湿度は、生産工程への影響、保管安定性、製薬製品(活性成分とラクトースのようなフィラー剤)、プラスチック(ナイロン)、建設材(セメント)、金属(鉄/錆び)、爆薬(ダイナマイト)と食品(ポテトチップ)のような多くの材料の使用上の特性に影響します。このことは、一定の相対湿度下の材料特性の調査か、材料の湿度依存性を測定する必要性を示しています。室温で高い相対湿度にさらされる試料は、湿気を取り込む傾向があります。戸外と接触して格納される製品は湿気を取り込むか又はロスするかもしれません。いずれにしろその度合いは相対湿度に依存します。その他の影響についても、湿気の取り込みは物質の機械的特性にも影響します。それはポテトチップを開封したまま2、3日間放置した人ならだれでも知っています。この場合、湿気は可塑剤の働きをしてポテトチップのガラス転移を室温以下にシフトしたことになります。ポテトチップは柔らかく、もはやサクサクしていません[2]。

相対湿度の材料挙動に関する研究は、特に製薬調合などの準備プロセスにおいて重要です。つまりこの研究は、プロセス段階の早期で開始すべきものです。ディスペンサー、例えばスプレードライ粉体が吸湿すれば、供給ラインとディスペンサー間を固体化した粉体がラインをブロックして生産をシャットダウンする可能性があります。そして、薬局の倉庫で薬品が不十分な包装のために湿気を吸着するならば製品の貯蔵寿命は明らかに短縮します。
さらに、湿気含有量が増加すると、薬の化学構造上の特性に大きな変化をもたらし、その結果生物学的効能と治療的な性能を減少させてしまう可能性があります。湿気の取り込みによる変化の1つの有力な理由は、活性物質の再結晶です。この現象は擬似多形として言及されます。この擬似多形が形成される合成物として水和物または溶媒化合物が知られています。これらは、水分もしくは溶媒分子の結晶格子への組み込みの結果として結晶構造が変化する時に生じる現象です。化学量論的水和物(例えば1、2、3水和物、その他)、は通常水分が結晶水として取り込まれるときには強固な結合となります。対照的に、水分は単に表面に吸着されるため、その場合は水は弱い結合力を維持するだけです。水和物と無水物(すなわち結晶水を全く含まない)は異なる挙動を示し、結果的に異なった薬効成分を持つことになります。
それらの物質は多形体[3]と同様に特許権を得ることができるので、擬似多形を確認しその特性を得ることは重要になってきます。この問題は、開発段階で早くから調査されます。

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文献

[1] M. Schudel, J.B. Ubbink, Ch. Quellet, Measurement of dynamic water vapor sorption processes by modified TGA, METTLER TOLEDO TA UserCom 17, 1/2003, pp 7-9
[2] Y.H. Roos, Thermal Analysis, State Transitions and Food Quality, Thermal Analysis Seminar Presentation, Cork (Ireland), 2004
[3] J. Bernstein, Polymorphism in Molecular Crystals, Clarendon Press, Oxford 2002, Chapter 10

ポリマー添加物のTGA-MSとTGA-FTIR分析による温度安定性評価について

はじめに

プラスチックとそれらの添加物の種々の生産工程において、材料温度精度、温度均質性は非常に重要なファクターとして位置づけられています。それは、高温での長時間処理のため、生産工程中に製品が分解し始めるという可能性が常にあるからです。
この特定ケースには、プラスチック工程中に異臭が検出されることが多いです。試料について、分解が起こった温度範囲を測定するために、発生した不安定な排出ガスをGA/ガス分析装置により分析しました。排出ガスは、まず質量分析計(MS)を使い分析し、その後にフーリエ赤外線分光計(FTIR)を使用しました。These two techniques allow volatile これらの2つの技術は、揮発分解合成物とガス状の排出物の分析と時にはその種類を同定するのに使われます。以下の例は、分解生成物としてアンモニアの識別例を示しています。この例は、これらの2つの技術を融合することが製品開発初期において如何に効果的かつ重要な分析になるかを示すものです。

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TMAによる粉体ディスクのガラス転移温度の確定

はじめに

ポリマーフィルムのガラス転移温度 (Tg) はTMAによって簡単に決定されることができます。対照的にTMAによる粉体サンプルの Tg の測定は、特にDSCに比較すると難しいと言えます。ただし、粉末や削りくずは、材料を前もって金型でプレスし、ディスク状で測定すれば可能です(図1)。

図1: 粉とひげ剃りからディスクを準備するために使われる型(寸法はmm、バレルとプランジャーは工具鋼からできています)。
図1: 粉とひげ剃りからディスクを準備するために使われる型(寸法はmm、バレルとプランジャーは工具鋼からできています)。

ディスクは、既知の粉体質量により金型である圧力で比較的簡単にプレスできます。スピンドルがトルクレンチ(図2)に接続しているマニュアルプレスの中に試料を入れて作成します。粉体に印加される圧力は、トルク・セッティングを変えることによって変えることができます。.

図2: マニュアルプレスとトルクレンチ付きダイス。
図2: マニュアルプレスとトルクレンチ付きダイス。

トルク成形圧力と粉体質量の Tg に及ぼす影響をTMAを使って調査しました。結果は、同じポリマーから成形されたフィルムのTg 測定値と比較しました。Pharmacoat® 606、非イオン性の水溶性セルロースエーテル族に属する低粘性ヒドロオキシプロピルメチル・セルロース(HPMC)がモデル物質に選ばれました。セルロースエーテルは多くの製薬用途に使われています。例えば薬品調剤用のフィルムコーティングなどがあげられます。

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脂質とリポソームの相転移

示差走査熱量計(DSC)によりdipalmitoylphosphatidylcholine(DPPC)から形成される二分子層膜の相転移温度(Tm)と転移エンタルピー(ΔH)を測定、評価しました。これらの二分子層は、モデル膜として用いられました。膜流動性に及ぼす異なる幾つかの薬学上活性なフラボノイドの影響について研究しました。DSCの測定結果は、フラボノイドの構造に密接に依存する熱効果が存在することを示しています。モデル膜に対するフラボノイド相互作用とDPPCの整列された脂質構造を変えるその能力の関係が観察されました。

はじめに

リン脂質分子は、2つの長いアシル基に結合する極性ヘッドから成ります(例えばDPPC(図1-1))。水の中で分散するとき、脂質はミセル(クラスター)、リポソーム(微細な同心嚢)または他の構造を形成するために極性基のヘッドを水の方へ向かせます。リボゾームはリン脂質が集合し2層分子を形成し、それから2層膜二分子層をつくるために更に集合する時に作られます。単層ラメラ(SUV: ユニラメラ小嚢)と多層ラメラ(MLV: マルチラメラ小嚢)構造は、どの薬剤成分の分子が取り込まれるかで生成されます。このことにより、リボゾームが医療アプリケーション(静脈注射)に、薬処方システムとして使用することになりました。リポソームが、生態細胞の膜に似ているため、細胞膜のモデルとして使用されます。

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ノウハウ