セミナー

Reaction Progression Kinetics Analysis(RPKA)

有機合成の反応速度解析の強力な手法

Donna Blackmond教授がReaction Progress Kinetic Analysis(RPKA)を用いた有機合成の反応速度解析をご紹介します。

Reaction Progress Kinetic Analysis(RPKA)は、in situ FTIRによる反応進行モニタリングを使用します。2つ(もしくはそれ以上)の原料が同時に変化する挙動をモニタリングし、得られる実験全体のデータを用いて速度論解析を効率化します。一般的に反応速度は反応初期速度の解析により計算します。1つの試薬濃度を大過剰とし一定量と見なすことで、他の試薬の変化量から反応速度を計算することが可能となります。この方法では反応初期の数分間のデータのみが使用され、その後のデータは使用されません。また濃度を少しずつ変えて複数回、実験を繰り返す必要があります。対照的に、Reaction Progress Kinetic Analysis(RPKA)ではより少ない実験回数で、反応速度を求めることが可能です。RPKAでは、数学的に決定された最小限の実験データをグラフィカルに操作することにより、容易に解析できます。RPKAは、新規反応の初期検討において反応速度情報を迅速に取得することができることに加え、さらには反応最適化や反応機構研究においても用いられます。この手法では、数学的な知識を必要とせず、特殊な反応速度モデリング技術も必要としません。

基本的にRPKAでは、「same excess」および「different excess」の2組の実験から成り立ちます。「different excess」では、一般的な反応速度解析と同様の情報が得られます。すなわち、反応速度式における様々な原料濃度の次数です。この場合のRPKAの主な利点は、一般的な手法よりはるかに少ない実験回数から反応速度式が得られることです。しかし、RPKA方法論が最も革新的であるのは「same excess」においてです。ここでは一般的な手法と同じ情報をより迅速かつ高精度に得るのではなく、入手が困難な触媒サイクルに関する情報を抽出するからです。「same excess」では、触媒の活性化や失活など、本来の反応速度とは無関係で一時的な影響を受けるものから触媒サイクルを区別するのに有用です。

プレゼンター

Donna Blackmond教授

Donna Blackmond教授はCarnegie-Mellon大学で化学工学を専攻し1984年に博士号を取得しました。1984-1992年にはPittsburgh大学で化学工学の教授を務めました。1992年に大学を離れ、Merck&Co., Inc.のAssociate Directorになり、有機反応の反応速度解析と触媒の研究開発のための新しい実験室の立ち上げを行いました。1996年から1999年まで、Blackmond教授はドイツのMülheiman der RuhrにあるMax-Planck-InstitutfürKohlenforschungの研究グループリーダーを務めました。1999年にイギリスに移り、University of Hullで教授と物理化学のChairを務めました。2004年にImperial College Londonに移り、化学学科、化学工学・技術学科で教授職を務め、触媒のChairも務めました。2010年、The Scripps Research Institute in La Jolla, Californiaに移り、教授を務めています。

Blackmond教授の研究では、化学工学的なバックグラウンドによる定量的側面と触媒による複雑な有機合成(特に製薬プロセスでの不斉触媒反応)を融合させることに焦点を当てています。Blackmond教授はこの分野で150以上の論文を発表しています。また多くの大手製薬会社のコンサルタントを務めており、製薬業界における有機反応の速度論解析についてのセミナーも行っております。Blackmond教授は2009年にRoyal Society of Chemistry Award in Physical Organic Chemistryを受賞しました。また2007年にRoyal Society Wolfson Research Merit Awardを受賞しました。American Chemical Societyの有機化学部門(2005年)でArthur C. Cope Scholar Awardを受賞しました。またハーバード大学ではWoodward Visiting Scholar(2002-2003)で、カリフォルニア大学バークレー校(2003)のMiller Institute Research Fellowでした。またthe Royal Society of Chemistry’s Award in Process Technology i(2003)、the North American Catalysis Society’s Paul H. Emmett Award(2001)、the Organic Reactions Catalysis Society’s Raul Rylander Award(2003)、the NSF Presidential Young Investigator Award(1986-91)を受賞しました。