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熱分析アプリケーションマガジン UserCom 7 (日本語版)

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UserComは、熱分析に関わる研究者向けのアプリケーションマガジンです。​

熱分析 UserCom 7(日本語版)
熱分析 UserCom 7(日本語版)

熱分析 UserCom 7内容

TAのヒント

  • 比熱容量の測定

製品情報

  • ファーネス・エキスパンダー
  • IQ/OQ

アプリケーション

  • 過塩素酸アンモニウムの分解
  • 土壌サンプルのキャラクタリゼーション
  • 比熱容量の正確な測定
  • ガラスクルーシブルによる安全性調査
  • 硬化挙動の決定
  • 熱重量分析でのプラチナクルーシブル

過塩素酸アンモニウムの熱分解のモデルフリー反応速度論解析

過塩素酸アンモニウム(AP)立方晶の熱分解の反応速度論はかなり研究が進んでいます。報告されている 有効な活性化エネルギーは、約 37 kJmol -1注1 から 260kJmol-1注2 まで大きくばらついています。この数値の 反応機構上の解釈もまた様々です。反応速度論情報の混乱した特徴は、このプロセスが様々な化学的 プロセス(固相分解、気体生成物と固体の反応、気相反応)と物理的プロセス(拡散、昇華、吸着-脱着)が 複雑に絡み合った相互作用として有名注3 であることからすれば驚くにはあたりません。APの熱分解の 有効な活性化エネルギーは、これらのプロセスの活性化エネルギーと、全体の分解速度に対する 各プロセスの寄与割合によって決定される複合的数値なのです。これらのプロセスの活性化エネルギーが 異なっている場合、有効な活性化エネルギーは温度による変動を示します。このようなマルチ-ステップ・ プロセスの反応速度論は、単一の定数値の活性化エネルギーでは特徴づけることができません。

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参考資料

1 Brill, T. B.; Brush, P. J.; Patil, D. G. Combust. Flame 1993, 94, 70.
2 Kishore, K; Pai Verneker, V. R.; Krishna Mohan, V. Thermochim. Acta 1975, 13, 277.
3 Jacobs, P. W. M.; Whitehead, H. M. Chem. Rev. 1969, 69, 551.

土壌・生態系キャラクタリゼーション用途の熱重量分析の展望

土壌は、農業と林業、さらに環境問題、廃棄物の有効利用と多数の生態系に関する問題でも中心的な役割を果しています。土壌の最も重要な特性の一つは、土壌有機物(ドイツ語での原論文は'organische Bodensubstanz'。以下、「OBS」と呼びます)です。それは植物の養分の基礎であり、また多くの化学的、物理的、生物学的な土壌特性にとって決定的に重要です。それは汚染物質の挙動に影響を与え、生態系の物質循環の基幹的な役割を果しています。

人々は、数十年間にわたり、土壌有機物のキャラクタリゼーションに一般的に適用できる方法を懸命に 探究してきました。今なお土壌の質を決定する試みが満足できるものではないことは明らかです。その理由は、土壌特有の物質成分の多様性が極めて大きいことです。変換プロセスが不均一で、土壌生物もたえまなく 変化しています。そのため、OBS(土壌有機物)分析の方法と結果及びその組成を、互いに比較するのはまず無理です。それらは今日的な土壌保護の課題には適用できず、エコロジカル分野の未来プロジェクト (例、農業での遺伝子組み換え生物利用のリスクアセスメント等)に取むのに適しているとはいえません。 土壌有機物の品質評価に関する熱重量分析メソッドが、現在ベルリン工科大学で連邦研究プロジェクトの 一部として開発されています。[…]

温度変調 DSC(TMDSC)による低温の比熱容量の精密測定

比熱容量 cp は、凝縮相にある物質の熱力学的物性のキャラクタリゼーションに用いられる最も重要な量の 一つです。これは特に構造的相転移およびガラス転移における静的・動的な物性の変化に当てはまります。 これらの転移現象で目下最前線にある研究活動の顕著な例は、強誘電体と強磁性体相転移、液晶および 超伝導体の転移、構造転移と古典的(標準)ガラスにおけるガラス転移等です。興味深い転移温度は、一般に絶対温度で数Kから数百Kの間に位置します。位相変化領域の cp 研究は大きく二つに区分されます: 断熱型熱量計または「交流型」(AC)熱量計を用いた費用と時間がかかる精密測定と、従来型 DSC を用いた 概括的測定です。本研究の目的は、「温度変調型」DSC(TMDSC)が上記の精密メソッドの優れた代替手段を 提供することを立証することです。

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ガラスクルーシブル(100µl)による安全性調査

はじめに

以前は、ガラスクルーシブルで安全性調査を実施することは珍しく ありませんでした。ガラスには無触媒表面という長所があります。それに加えて、測定後にサンプルを目視点検できます。残念ながらガラスクルーシブル(ME27812)は、DSC821e のセルとして使うには背が高すぎます。現在では、 特殊リッド(DSC ファーネスエキスパンダーME51140735)によるファーネス エキスパンションがご利用になれますので、再び 100µl のガラスクルーシブルをお使い頂けます。

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TMA/SDTA を用いた硬化挙動の決定

硬化において、duroplast は、最初は液状であるか、または少なくとも塑性変形が可能です。架橋が増えるに つれ、最終的に硬化する前にゲル状またはゴム状になります。分子は、反応物全体にわたって三次元網目 構造を形成します。通常のエポキシ樹脂のゲル化は約 65%の反応率で起ります。ゲル化時間は、duroplast の 加工にとって重要です。なぜなら、それを過ぎると材料の組成変形が不可能になるからです。例えば、接着剤を使用できるのはゲル化前だけです(このゲル化時間は「ポットライフ[可使時間]」として知られています)。

熱分析には、このような系の硬化挙動のキャラクタリゼーションが可能なテクニックがいくつか含まれています:硬化前、硬化中、硬化後の特定物性の測定および反応速度論(硬化時間と硬化温度)。DSC は通常、 放出される熱を計測して架橋反応を追跡して、ガラス転移温度を測定するのに使用されるテクニックです。 もちろん DSC は、硬化中の粘度・弾性率の増加や、硬化した樹脂の膨張係数を決定することはできません。

そこで、熱機械的分析(TMA)が特に曲げ測定を実施する時にはお勧めのメソッドです。反応熱と曲げの測定のコンビネーションが理想的です。これを実現したのがメトラートレド TMA/SDTA840 です。

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熱重量分析でのプラチナクルーシブル

購入予定のお客様から、お客様の用途に当社の熱天秤が適しているか確認したので、食器洗い用粉末洗剤(珪酸塩と有機界面活性剤の混合物)の分解プロファイルを測定するよう当社にご依頼がありました。 最初の TGA 測定は、昇温速度 10K/分で 40℃から 600℃の温度範囲で 70µl アルミナクルーシブルにより 窒素中で実行しました。その結果、200℃から 300℃にかけての減量ステップ、並びに相当の残留物が あったことを客様に報告しました。お客様のコメントは、当社のシステムが期待した結果を示しておらず、 競合他社の機器ほど感度が良くないとのことでした。この反応に発奮して、私たちは昇温速度を落して、 使用サンプルサイズを小さくし、さらに軽量のアルミニウムクルーシブルで再度測定を実行しました。 うまくいかなかったとき、最後に当社の Schwerzenbach の専門家が、プラチナクルーシブルの触媒効果を テストする、という決定的なヒントを私たちに与えてくれました。新しい実験を開始したところ、実際に期待した結果が得られました。プラチナの触媒効果によって、30℃も低い温度で分解が完了し、3 つの分解ステップを 確認できました。今では、このお客様はメトラートレドの機器を持っています。

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ノウハウ