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熱分析アプリケーションマガジン UserCom 39 (日本語版)

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UserComは、熱分析に関わる研究者向けのアプリケーションマガジンです。​

熱分析 UserCom 39(日本語版)
熱分析 UserCom 39(日本語版)

熱分析 UserCom 39内容

TAのヒント

  • カーブの解釈 Part 2 :昇温速度と冷却速度のバリエーション

ニュース

  • STARe システムの拡張
  • TGA-IST-GC/MS システム – 前例のない詳細な洞察
  • 熱分析における 50 年間の技術革新
  • Huber 社の最新の装置による冷却
  • Quantos HPD – 粉末注入のための手軽なソリューション

アプリケーション

  • 高圧 DSC による液体の蒸気圧曲線および蒸発エンタルピーの測定
  • TGAおよび DSCを用いた硝酸アンモニウム油中水エマルジョンの組織成分
  • 天然毛髪と化学処理した毛髪の熱機械分析
  • 700℃ 以上の温度での温度変調 DSCによる熱容量の測定

高圧 DSC による液体の蒸気圧曲線および蒸発エンタルピーの測定

異なる圧力での液体の沸点の測定から、蒸気圧曲線を求めることができます。さらにこのような測定からClausius–Clapeyron の式を用いて液体の蒸発エンタルピーが得られます。本論文では、水を例にして、このような測定が高圧 DSC でどのようにして行うかを示します。

はじめに

液体の沸点は周囲の圧力によって異なり、圧力が低くなるほど、液体の沸点は下がります。

このため、気圧がわずか 325 mbar ほどのエベレストの山上で水は、約 70℃ で沸騰し、海面高さ付近のように 100℃ で沸騰するわけではありません。沸点の圧力に対する依存性は、高圧 DSC(HP DSC)で簡単に測定できます。

またこのような測定から Clausius–Clapeyron の式で液体の蒸発エンタルピーを求められます [1]。

Clausius–Clapeyron の式では、物質の蒸気圧 p と沸点T の関係を示します。

[…]

参考文献

[1] ASTM E2071, Standard Practice for Calculating Heat of Vaporization or Sublimation from Vapor Pressure Data ( 2010 )

TGA および DSC を用いた硝酸アンモニウム油中水エマルジョンの組成分析

硝酸アンモニウムのエマルジョンの組成分析は、貯蔵寿命を予測するために、保管中の安定性だけでなく、エマルジョンの品質基準の監視にも重要です。この種類のエマルジョンの研究は、通常、さまざまな方法の組み合わせが必要なため、時間がかかる可能性があります。相補的な熱分析技術(TGA と DSC)を用いれば、エマルジョンのほとんどすべての成分比を得るために必要な分析を最低限に抑えられます。ここでは、この測定方法について説明します。 

はじめに

「Water-in-oil(油中水型)」硝酸アンモニウムエマルジョンは、エマルジョン爆薬の主要構成要素です。従来のニトログリセリンベースの爆薬に比べて、この爆薬にはさまざまな長所があります。このエマルジョンの優れた安全性(取扱い、温度変化に対する鈍感さ)、高い爆発速度、価格の安さにより、1962 年に開発されて以来、広く普及してきました [1、2]。

このエマルジョン自体は爆薬ではありません。系の密度を下げるガラスまたはプラスチックのマイクロバブルと高エネルギー燃料としてアルミ粉末のような任意の金属粒子をこのエマルジョンに混ぜることにより、初めて有効な商業的爆薬になります。爆薬は、最終的にボーリング穴に送り込む前に現場のモバイルユニットで調整できます[1]。

エマルジョン中で水の層は、過飽和によって準安定にある過飽和硝酸アンモニウム(AN)溶液で構成されています。硝酸ナトリウム(SN)や硝酸カルシウムなどの他の種類の塩がそれに加えられます。

約 1 μm の液滴サイズの水は小量の炭化水素オイル中で乳化し、液滴の周りに薄い膜が形成されます。分散された水相はには約 90 質量%の液状成分が含まれ、残りの 10 質量% は油相です。

全ての成分のうち、硝酸アンモニウムが約 70 % を占め、エマルジョンの主要成分となります。乳化剤により全く異なる極性を持つ2 つの相から成るエマルジョンは形成され安定化されます [1]。

保管中に水が揮発して硝酸アンモニアが結晶化する場合があります。結晶化はエマルジョンの不良につながり、必要な爆発特性が失われます。一方で、水分の割合が高くなりすぎても爆発しなくなります。

このため、安定性試験では、非晶質または結晶相について、水の含有量および硝酸アンモニウムの状態に関する正確で高精度な結果が求められます [1]。硝酸アンモニウムと炭化水素オイルの含有量は、エマルジョンの品質を管理するために重要です。

エマルジョンの定量分析は、通常、一連の化学結合を検出し同定するために、さまざまな測定方法の組み合わせが必要となり、時間がかかる場合があります [3]。基本かつ相補的な熱分析技術(TGAとDSC)を使用すれば、硝酸アンモニウムエマルジョンのほとんどすべての成分を定量的に測定するために必要な分析作業が最低限に抑えられます。さらに、時間のかかる水相と油相の分離も不要なため、そこから生じるエラーもありません。

[…]

参考資料

[1] H. A. Bampfield and J. Cooper, In: Encyclopedia of Emulsion Technology; P. Becher ( Ed. ); Applications; Marcel Dekker Inc., New York, Vol. 3 ( 1988 ), 282– 306.
[2] C. Oommen et al, J. Hazard. Mater., Vol. A67 ( 1999 ), 253 – 281.
[3] D. T. Burns et al, J. Anal. Chim. Acta, Vol. 375 ( 1998 ), 255 – 260.

天然毛髪と化学処理した毛髪の熱機械分析

最近、髪の毛を滑らかにし、縮れを防ぐために、天然タンパク質やケラチン処理が使われています。同時にこれらは、毛髪につやを与えます。しかし、多くの処理にはリスクが伴います。このため、安全な処理を選択するために、起こりうる悪影響を十分に認識しておくことが重要です。これを確認するために、熱機械分析(TMA)は毛髪の機械的および物理的な特性を評価するのに適した技術です。

はじめに

熱機械分析(TMA)により、定荷重下での材料の膨張および収縮挙動を、時間または温度の関数として測定します [1、2]。

適切なクランプを選択し各種測定モードを使用できます。これにより、棒状、フィルムまたは毛髪のように細い繊維を分析できます。

非常に細い髪の毛でも銅製クリップによって、引張り冶具に取り付けることができます。

この応用例では、2 種類の毛髪(未処理の天然の毛髪とつやとなめらかさを与える処理を施した毛髪)を引張りモードで 230℃ の温度まで測定しました。その際に毛髪の膨張/収縮挙動および熱安定性を相互に比較できます。

人間の頭髪は、アミノ酸システインからの硫黄が高濃度で含まれているタンパク質、ケラチンで形成されている天然繊維です。頭髪の大部分を占めるのは皮質です。皮質のケラチン繊維が髪の毛を強くします。この長鎖が圧縮されて、規則正しい構造を形成します。髪の毛の最も重要な物理特性は引き裂きに対する抵抗ですが、弾力と親水性も重要です。

一般に、望ましい外観、形状または構造を得るために、ヘアトリートメントを使用します。しかしながら、このような処理は分子レベルでの髪の傷みの原因になり、カサカサと乾燥した張りのない髪につながります。髪の毛の見かけや手触りを向上させる製品を望む声により、ヘアケアの大きな業界が生まれました。

革新的な化粧品を開発するためには、髪の毛の構造、物理的および機械的な特性を把握することは欠かせません。このために、TMA などの技術が大いに役立ちます。

[…]

参考資料

[1] PET, Physical curing by DLTMA, UserCom 5, 15
[2] Interpreting TMA curves, UserCom 14, 1

700℃ 以上の温度での温度変調 DSC による熱容量の測定

温度変調 DSC を使用して、高精度で熱容量を求めることができます。従来の DSC では 700℃ まで測定できました。ここでは、TGA/DSC を使って、1000℃ 以上でも同様に良好な結果が得られることを示します。このために、温度範囲 900~1400℃ でのニッケル、サファイアおよびモリブデンの ADSC 測定を示します。この実験は、2012/2013 年にドイツ熱分析協会(Gefta)の熱物理学ワーキンググループによって実施された並行試験の一環として行われました。

はじめに

DSC で比熱容量を求めるには、サファイア法などのさまざまな手法があります[1、2]。いずれにしても、DSC における最高温度は 700℃ です。参考文献 [3] には、TGA/DSC 1 で比熱容量をサファイア法を使用して、最高 1400℃ 、約 10 % の精度で求める方法を示しました。参考文献 [4] には、応用例が示されています。

TGA/DSC で比熱容量を求めるために、DSC 測定の場合と同様に、TGAシグナルと同時に測定されたヒートフローを解析します。温度変調技術 Iso-StepTM [5]、Steady-State[3]、ADSC [6] および TOPPEM® [7、8] により、DSC に追加の測定方法を使用できます。TOPPEM® は、現在、TGA/DSC 用に実装されていません。

温度変調測定は、サファイア法と比べるとドリフトの影響が小さく、最大2 % の精度を達成できる利点があります。Steady-State、ADSC およびTOPPEM® では、等温条件で比熱容量を解析することもできます。

さらに、顕熱および潜熱の熱容量の寄与についての情報も得られます。しかし、多くの場合、サファイア法よりも測定時間は基本的に長くなります。本論文では、900~1400℃ の温度範囲での ADSC による比熱容量の測定方法を示します。この測定は、TGA/DSC 1 によって行いました。

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参考資料

[1] Measuring specific heat capacity, UserCom 7, 1 – 5.
[2] G. W. H. Höhne, W. Hemminger and H.-J. Flammersheim: Differential Scanning Calorimetry, Springer Verlag, 1996, 118.
[3] Heat capacity determination at high temperatures by TGA / DSC, Part 1: DSC standard procedures, UserCom 27, 1 – 4.
[4] Heat capacity determination at high temperatures by TGA / DSC, Part 2: Applications, UserCom 28, 1 – 4.
[5] Iso-Step™: UserCom 15, 8, The investigation of curing reactions with IsoStep™ : UserCom 15, 18 – 19.
[6] Alternating differential scanning calorimetry, ADSC, opens new possibilities, UserCom 2, 5 – 6.
[7] J. Schawe, The separation of sensible and latent heat flow using TOPEM®, UserCom 22, 16 – 19.
[8] J. Schawe et. al., Stochastic temperature modulation: A new technique in temperature modulated DSC, Thermochimica Acta 446 (2006) 147.

ノウハウ