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熱分析アプリケーションマガジン UserCom 32 (日本語版)

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UserComは、熱分析に関わる研究者向けのアプリケーションマガジンです。​

熱分析 UserCom 32(日本語版)
熱分析 UserCom 32(日本語版)

熱分析 UserCom 32内容

TAのヒント

  • ポリマーの熱分析 第 2 部:熱可塑性樹脂のTGA、TMAおよび DM測定

ニュース

  • 新製品 Flash DSC 1
  • 新しい STARe ソフトウェア V10.0
  • Excellence 融合システムのための新しいソフトウェア

アプリケーション

  • HP-DSC による魚油の安定性研究 - 古典的方法の比較
  • Flash DSC 1: 準安定物質に対する高いパフォーマンス
  • TGA(熱重量変化)- FTIR:熱分解の測定から難燃メカニズムの解明
  • TOP-PEM および DMA による繊維複合材料の分析

HP-DSCによる魚油の安定性研究 - 古典的方法の比較

どうすれば魚油の品質を速やかに把握できるのでしょうか。最適な保存条件とはどんなものでしょうか。圧力下での熱量測定(HP-DSC)はこのような疑問を速やかに解消できるのでしょうか。これを判断するために、酸素雰囲気中で高温において未処理安定魚油の測定を実施しました。その結果を古典的テスト方法と比較・検討します[1]。

はじめに

人間の栄養補給のサプリメントとしての必須オメガ・3・脂肪酸含有量の高い魚油の使用は幅広く普及していますが、これらの魚油は抽出の直後から非常に酸化しやすく、使用が制限される場合があります(臭い、フリーラジカル等)。

この問題に対処するため、酸化防止剤を添加し、植物質カプセルに封入しています。こうすることで、酸化プロセスを遅延させ、魚油の安定性は向上します。しかし、この種の魚油製品のメーカーは、常に自社製品の品質を決定し、最適保存条件実現のための措置を講じられるようにするために、信頼性の高いテスト方法を必要としています。この方法はできるだけ簡単かつ高速なものとすべきです。

この研究の目的は、圧力DSC 測定をその他の分析方法と比較することにあります(過酸化物指標、気相抽出ガスクロマトグラフィー)。

[…]

参考資料

[1] M. Zongo, diploma work, Dept Life Technologies, HESSO-Valais (2009)

Flash DCS 1:準安定物質に対する高いパフォーマンス

ここではFlash DSC 1を紹介します。この高速DSC測定装置にはチップセンサが装備され、数千K/s(100 000 K/min以上)の昇温/冷却速度での測定が可能です。これにより、準安定物質の構造変化、原料調合の最適化、プロセスのシミュレーション、小さなサンプルの熱分析などに用いることができます。

はじめに

1960年代にDSCが商品化されると、物質の熱特性を明らかにするためこの技術は瞬く間に広まりました。DSCの強みは、相転移や物質の構造、化学反応の速度や組成に関する複雑な情報を、簡単にかつ容易に得ることができる点にあります。ゆえに従来のDSCはスタンダードな手法として広く普及しました。ちなみに、今日のDSCのシグナル時定数は一秒ほどで、昇温速度の範囲は0.1 K/min~300 K/minと約3.5桁にまたがります。

半結晶ポリマーや多形性を示す物質、混合物、合金などは準安定物質ですが、その構造と熱特性、力学特性、電気特性、磁気特性は熱履歴に依存します。特に、液体状態のサンプルを冷却したとき、冷却速度の違いは異なる準安定構造をもたらします。続く昇温過程では、しばしば融解前にサンプルの構造が変化しますが、この「再組織化」のプロセスは時間に依存するため、DSC測定の結果は昇温速度に依存します。しかしながら、DSCでは再組織化はしばしば観測されません。これは再組織化の際に発熱と吸熱が同時に起こるためです。

製品の製造プロセスでは~数百K/secの冷却速度がしばしば用いられますが、残念ながら、この挙動を調査するためには従来のDSC装置が有する昇温/冷却速度は小さすぎました。構造形成と再組織化の研究には冷却速度が1000 K/sec(60 000 K/min)に達し、6 桁にまたがる幅広い昇温/冷却速度でのDSCが必要です。

この速度範囲が使用できるよう、Flash DSC 1が開発されました。これは数千K/sの昇温/冷却速度を可能にしたDSCで、新しい技術に基づいています。

以下ではFlash DSC 1といくつかの測定例を紹介します。

[…]

TGA(熱重量変化)- FTIR:熱分解の測定から難燃メカニズムの解明

燃焼挙動は、特に電気・電子工学、輸送、建築業における材料の選定の際に重要となる性質です。従来の技術的ポリマーは、その化学構造ゆえに燃焼可能であり、しばしば発火する可能性すらあるため、難燃剤を加えることで性質を変える必要があります。かつてはハロゲン系の難燃剤が広く用いられており、近年、リン系の難燃剤が代替品として提案されています。

はじめに

リン系の難燃剤は異なる多くの難燃メカニズムが作用することによって効果を発揮します。特に重要なのは気相(炎)状態における窒息作用 と、凝縮相(熱分解)状態における炭化作用です。

窒息作用は、炎中にPOラジカルが生じることに伴うリン系の熱分解生成物 の放出によって生じます。反応性の高いHラジカルおよびOHラジカルとPOラジカルとの反応により、炭化水素の酸化の連鎖反応が妨げられ、発熱ないし発火性が減少します。さらにリン系の難燃剤は熱分解においてポリマー・マトリックスの炭化をもたらすか、促進し、燃料もしくは可燃性の物質が燃え上がらないようにします。加えや準安定なサンプルの構造形成や再組織化の調査が可能です。また、高速昇温によって再組織化を抑制できれば、サンプルの元々の状態の調査が可能になります。て、この際に生じた燃えかす が、熱輸送と物質輸送 に対する障壁となるため、燃焼するリスクは減少します。ほぼ常にリンを含むような膨張性の系、つまり加熱時に発泡性となる系においては、この障壁作用が主要メカニズムであることすらあります。

原則的にポリマーは着火後、物質の表面で安定した炎を発して燃焼します。炎は物質が酸素の影響下で燃焼する反応領域です。対照的に、炎の下の酸素がない凝縮相では、熱分解(酸素のない環境での分解)によって物質は損なわれます。[1]

ポリマーの燃焼挙動、特にリン系難燃剤の難燃メカニズム(リンの放出、炭化しかつ/あるいは無機系の残留物の生成)を理解するには、熱分解の性質を明らかにすることが非常に重要です。熱重量変化測定(TGA)によって少ない実験量で、燃焼挙動や炭化収率(char yield)についての示唆を得ることができます。

熱分解についてさらに情報を得ることは、異なる方法(例えばFTIRあるいは質量分析法を使用して熱分解ガス分析を伴うTGA、あるいはFTIR, REM-EDX、固体NMRを使用した残留物の分析)との組み合わせによって初めて可能になります。[2, 3] その際、同時測定 TGA-FTIRは必要となる実験が比較的少ないゆえに傑出した位置を占めています。

TGA測定により、分解のステップ数や分解温度、分解の各ステップでの質量の損失、異なる温度における残留物量が明らかになります。FTIRがそのTGAとオンラインで接続されていれば、あらゆる時点における揮発性の分解生成物を同定することができます。

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参考資料

[1] R.E. Lyon: Plastics and rubber, in C.A. Harper (Editor), Handbook of building materials for fire protection, McGraw- Hill New York (2004)
[2] U. Braun, B. Schartel, M.A. Fichera, C. Jäger, Flame retardancy mechanisms of aluminium phosphinate in combination with melamine polyphosphate and zinc borate in glass-fibre reinforced polyamide 6,6, Polymer Degradation and Stability, 92 (2007), S. 1528-1545
[3] U. Braun, B. Schartel, Flame Retardant Mechanisms of Red Phosphorus and Magnesium Hydroxide in High Impact Polystyrene, Macromolecular Chemistry and Physics, 205 (2004), S. 2185-2196

TOP-PEM および DMAによる繊維複合材料の分析

各種添加剤を含む複合材料(マトリックス樹脂)の硬化反応とガラス転移の特徴を明らかにすることにより、複合材料の希望の特性と効率を保証することが可能になります。本研究では、TOP-PEM および DMA を使用し、エポキシドマトリックスを有する炭素繊維強化複合材料の研究を行います。

はじめに

繊維複合材料は、航空宇宙産業や自動車製造や建設業界において、構造材として幅広く使用されています。その理由は、例えば、優れた剛性・密度比、低熱膨張特性および優れた制振性のような、特別な特性を有することにあります。

複合材料の強度と剛性は、主として、繊維の種類、その容積パーセンテージおよびその配向性(例えば、一方向または織物として)により決まります。繊維の正しい配向性を維持し、各繊維の間の力を伝達し、繊維を化学的または物理的損傷から保護するために、熱硬化性プラスチックがよく使用されます。

そのため、マトリックス樹脂の特徴を明らかにすることは重要であり、それによって、その特性を製造プロセスに適合させ、品質を管理し、もし不具合が生じた場合は、それらの不具合を分析することが可能になります。樹脂のガラス転移と熱硬化挙動が、例えば、衝撃強さ、脆性、クリープ挙動または耐溶剤性のような材料物性に大きな影響を与えることがあります。

ガラス転移温度が通常、相当離れている場合は、硬化の大幅な不足または反応が大幅に進行していることが考えられます。その原因は、例えば、加工温度の間違いの結果であったり、あるいは、ワークピース中の温度勾配が大きすぎることであったりする可能性があります。特に材料が硬化不足である場合は、保管条件(例えば、温度や湿度)もマトリックス樹脂に悪影響を及ぼすことがあります。複合材料の使用中の後硬化はその特性を劣化させることがあります。

熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のガラス転移は、比熱容量(Δcp)を手掛かりにして、DSCにより簡単に検出することができます。添加剤、水分などを多く含む複合材料の場合は、Δcpの変化が例えば水分の蒸発による脱水ピークと重なり、非常に小さくなることがあるので、ガラス転移を検出することは非常に困難であるか、全く不可能になることがあります。その場合は、動的粘弾性分析(DMA)のように、弾性率または損失係数のような機械特性の変化を手掛かりにして、ガラス転移を検出する手法が有効となります。

時には、ガラス転移の際の比熱容量(Δcp)の変化がその他の熱変化によって隠れてしまうことがあります。例えば、後硬化が始まることもあったりしますし、蒸発ピークがガラス転移に重なったりもします。それに加えて、材料の熱処理(熱履歴)または機械的前処理が緩和現象につながることもあります。これによって、DSC、DMAの測定結果の解釈と評価が難しくなったり、DSC による多成分系のマトリックス樹脂では、ガラス転移温度の測定が完全に不可能になったりします。この可逆成分と不可逆成分に分離する目的で用いられるのが温度変調DSCであり、その温度変調方式の一つがTOP-PEMとなります。TOP-PEM温度変調を使用することにより、可逆的成分と不可逆的成分に分離された結果とその有効性などの理解を深めることが出来ます。

本研究では、どのようにして炭素繊維強化エポキシド樹脂の特徴をTOP-PEM および DMAにより 明らかにできるのかを示します。これらの技術は研究開発やプロセス・品質管理で使用することができます。

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参考資料

[1] J. Schawe, The separation of sensible and latent heat flow using TOPEM, UserCom 22, 16–19.

ノウハウ