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熱分析アプリケーションマガジン UserCom 22 (日本語版)

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UserComは、熱分析に関わる研究者向けのアプリケーションマガジンです。​

熱分析UserCom 22(日本語版)
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熱分析 UserCom 22内容

TAのヒント

  • 熱分析のメソッド開発Part 2

ニュース

  • STARe V9.00
  • DSC 823e
  • TOP-PEM - 新しいマルチ周波数温度変調法

アプリケーション

  • AMFK(advanced model free kinetics)を使用する材料の長期安定性評価
  • 難燃性ポリマーの熱分析実験
  • 顕熱と潜熱流の分離:TOP-PEM の応用

ヒント/ノウハウ

  • DSC によるポリマーの熱伝導度の簡単な決定

AMFK(advanced model free kinetics)を使用する材料の長期安定性評価

ここでは ポリスチレン(PS)の分解を例として採り上げ、AMFK(advanced model free kinetics)法を使用して材料の長期安定性を予測する方法について説明します。加熱測定と等温測定を組み合わせて使用し、さらに反応速度論からの予測と測定を繰り返し比較した結果からこの手法が有効であることが分かりました。

はじめに

AMFK の重要な応用の 1 つは、実際に反応を測定するのが困難または不可能な条件下での化学反応の過程を予測することにあります。具体的には容易に実現できる温度範囲で測定を行い、その結果から別な温度範囲での挙動を予測するという手法を用います。ただし、反応速度データを良好な精度で外挿できるためには、変換 α における反応機構が温度によって大きな変

化を示さないという条件が必要です。実測する温度範囲と予測する温度範囲が近い場合は一般的にこの条件が成立します。しかし、材料の安定性を長期的に予測しようとする場合は比較的高い温度範囲で測定を行い(例:300℃ 近傍でのポリマーの分解)、それをもとに室温での挙動を予測しようとするのが普通です。反応のメカニズムは温度によってかなり変わる可能性があり、特に拡散プロセスの影響を考慮に入れる必要がありますから、そのような広い温度範囲にわたる反応速度の予測は非常に慎重に行わなければなりません。このため、可能な限り常に測定データ(たとえば等温測定で得たデータ)と予測との比較を行わなければなりません。もちろん、使用できる測定時間と観測する温度範囲との間で適宜妥協を図る必要があります。一般的には温度が低いほうが反応速度データから得られる予測の精度が高くなりますが、同時に必要な測定時間が長くなり測定技術上の難易度も高くなるのが普通です。AMFK(advanced model free kinetics)のソフトウェアは加熱測定、等温測定、さらには任意の温度セグメントを含む測定のいずれのタイプのデータも同時に含めて計算できるように設計されています。この反応速度ソフトウェアが特に物質の長期的な挙動を予測するのに適している理由がここにあります。

ここでは特に低温領域における反応の予測について説明します。その評価のために熱重量分析データを使用しますが、ここではモデル物質としてポリスチレンが選択されています。

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難燃性ポリマーの熱分析測定

はじめに

エンジニアリング用や建設用ポリマー材料は有機高分子を基材としていますが、それぞれの用途に特有な要求事項に適合させるためにさまざまな機能を持つ添加剤が加えられています。ポリマー材料は炭素と水素を含むため通常は易燃性物質ですが、安全上の理由からそれぞれの応用分野(建設、電気工事、輸送など)に応じて防火への強い要求が寄せられています。しかし、基材となるポリマーだけでこれらの要求に応えることはできません。しかし、適切な難燃性物質 [1] を添加することにより、たとえば大量生産させる易燃性プラスチックである ABS やポリオレフィン(PE、PP)であっても防火特性を付与することが可能です。

炎を発生させて燃焼を維持するためには少なくとも次の 3 つの要件を満たす必要があります:燃焼物質の存在、酸素供給源の存在、および十分に大きな活性化エネルギー。一旦着火すると、その後は複雑な、通常はフリーラジカルによる、分解過程(熱分解と酸化反応)が起こります。これらの反応は原則として発熱反応です。この観点から、以下の特性を持つ物質が難燃性を持つことになります。

  • 競合する吸熱化学反応を引き起こして発熱性の燃焼エネルギーを吸収する物質。系全体の温度を下げる効果を発揮します
  • フリーラジカルと酸化分解過程を阻害する物質
  • 不燃性の、多くの場合は泡状の塊を発生させて保護層を形成する物質。 たとえば炭化や無機性、ガラス状物質の形成がこれに相当します
  • 周囲から酸素を排除または(化学反応により)消費し尽す物質、または燃焼ガスと酸素の混合物を希釈する効果を持つ物質


今日では複数の異なる化学反応を組み合わせて相乗効果を持たせた難燃剤も使用されています。
燃焼挙動を調査する方法として何種類もの標準法が確立されています [1]。この中には材料の持つ特定の特性を調べる方法や特定の産業に特化した方法などがあり、たとえば前者の例として ISO 4598に規定された LOI ( Limited Oxygen Index)や ISO 5660 に規定されたコーン熱量法、後者の例としては UL 94 が規定する電気工事用のブンゼンバーナー試験などを挙げることができます。これらの測定/試験手続きは材料や注目する部品の燃焼挙動に対する実際的な知見を得るために有用であることから、材料の要求仕様に特定の試験が指定されることもしばしばです。

しかし、燃焼挙動の特性を把握しようとしても、極く少量の材料しか入手できない場合や材料の幾何形状が不適切である場合には現行標準法をそのまま適用するのが困難であることがあります。材料の特性を詳細にわたって調べたいときや損傷解析ではしばしばこの問題に遭遇します。このような状況では多くの場合、熱分析を標準的な化学分析手法と組み合わせることにより有用な結果が得られます。

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文献

[1] P.F. Ranken, 12. Flame Retardants, in H. Zweifel (Editor), Plastics Additives Handbook, Carl Hanser Verlag, München, 5th Edition (2001), p. 681-698

しかし、燃焼挙動の特性を把握しようとしても、極く少量の材料しか入手できない場合や材料の幾何形状が不適切である場合には現行標準法をそのまま適用するのが困難であることがあります。材料の特性を詳細にわたって調べたいときや損傷解析ではしばしばこの問題に遭遇します。このような状況では多くの場合、熱分析を標準的な化学分析手法と組み合わせることにより有用な結果が得られます。

顕熱と潜熱流の分離:TOP-PEM の応用

TOP-PEM は温度変調を応用した新しいDSC 分析技術です。この方法を用いることにより潜熱と顕熱の流れの分離が可能となり、さらに熱容量の周波数依存性を1 回の測定だけで調べることができます。

はじめに

ベースとなる温度勾配セグメントや等温セグメントを使用する点では従来法と同じですが、TOP-PEM では温度プログラムを使用してこれにランダムなパルス幅を持つ小さな温度パルスを重畳させます。この方法を用いることにより顕熱と潜熱の流れを相互に分離できるようになることに加えて熱容量の周波数依存性を決定することができますから、これらのデータをもとにプロセスの動力学に関する結論を導くことが可能になります。本稿では TOP-PEM の幾つかの応用例を採り上げてこの新しい解析法の持つ能力を明らかにします。

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ノウハウ