熱分析アプリケーションマガジン Vol. 19 |メトラー・トレド
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熱分析アプリケーションマガジン UserCom 19 (日本語版)

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熱分析 UserCom 19(日本語版)
熱分析 UserCom 19(日本語版)

熱分析 UserCom 19内容

TAのヒント

  • 速い昇温速度によるDSC 測定-利点と限界

ニュース

  • TMA/SDTA841e
  • UV-DSC

アプリケーション

  • 複雑な反応の反応速度論研究・パート2:拡散律速の説明
  • フェノール・ホルムアルデヒド樹脂の硬化反応速度論
  • 紫外光を使用した粉体塗料の効果
  • DSC によるプラスチック成形品の品質保証・パート1:受入原料

複雑な反応の反応速度論研究・パート2:拡散律速の説明

はじめに

「高温硬化システム」の架橋反応は、複雑な反応です。反応条件にもよりますが、最初に化学反応によって律速される反応が変化し、拡散律速になります。それによって反応速度が急速に遅くなります。反応はほとんど停止します。その理由は、化学反応によって透化が誘導され、その結果、物質が液体からガラス状態に変化するからです。

この研究のパート1 では、ビスフェノールA のジグリシジルエーテル(DGEBA)と、ハードナーまたは硬化剤としてのジアミノジフェニルメタン(DDM)から構成される2 成分エポキシ樹脂の硬化反応をDSC によって調査し、モデルフリー反応速度論(MFK)ソフトウェアを使用して解析しました。ここでは、1K/分を超える昇温速度での硬化が、反応の全体の範囲にわたって化学反応によって律速されることが示されました。

MFK によって、等温反応が透化にいたるまでのコースを正確に予測することが可能です。ガラス転移温度が反応率の関数として知られている場合には、材料が等温反応によって透化するのに要する時間を推定するために、MFK を使うことができます。反応律速から拡散律速への反応速度論の移行を含む硬化反応の完全なコースを記述するためにはMFK を拡張する必要があります。本稿では、反応速度論に対する拡散律速の効果を考慮するために十分なMFK の増強を行っています。

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文献

[1] J. Schawe, UserCom 18 (2003) 13.
[2] S. Vyazovkin, New J. Chem., 24 (2000) 913.
[3] S. Vyazovkin N. and Sbirrazzuoli, Macromol. Rapid Commun, 21 (2000) 85.
[4] J.E.K. Schawe, J. Thermal. Anal. Cal., 64 (2001) 599

フェノール・ホルムアルデヒド樹脂の硬化反応速度論

はじめに

DSC とTGA は、熱分析(TA)による材料の反応速度論研究を実施するために一般的に用いられる有名な手法です。フェノール・ホルムアルデヒド樹脂(PF レゾール)の反応速度に対する温度の影響を知ることによって、重合速度を予測することができます。例えば、木材複合材料の製造、あるいは樹脂の保管のために、これは実用上とても重要になります。

文献で報告されているレゾール硬化反応速度論の大部分は、Borchardt-Daniels メソッドを使って得られたものです。ここでは、所望の反応速度論パラメータを得るために必要なのは、単独の昇温速度での一回のラン(ダイナミック測定)だけです。しかし、通常、反応速度論パラメータは、昇温速度に依存しているのでその結果の解析と解釈には注意が必要です。同様に、しばしば反応全体を通じて活性化エネルギーが一定であると仮定されています。しかし、これはフェノール樹脂に起きるような複雑な硬化反応には当てはまりません。フェノール・ホルムアルデヒド(PF)樹脂は、ランの開始時には粘度が低いので、希釈溶液という仮定が適合します。しかし、硬化反応が進むにつれて、材料はゲル化し、すなわち液体からゴム状態に変化し、さらに透化する可能性もあります(ゴム状態からガラス状態への転移)。架橋によって分子の運動性が減り、その結果、反応速度論による律速から拡散律速へとプロセスが変化します。

Vyazovkin によって開発されたモデルフリー反応速度論(MFK)メソッドは、活性化エネルギーEa が反応率(α)に依存するという仮定に基づいています。特定の反応率では、活性化エネルギーEa は昇温速度に依存していません。MFK によるエバリュエーションには、異なる昇温速度で実行するダイナミック測定が少なくとも3 回必要です。アルカリ条件下でのフェノールとホルムアルデヒドのPF 樹脂になる反応が複雑であるので、MFK エバリュエーションは、この硬化挙動を説明するのに適した方法と見られます。

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文献

[1] He, G., Riedl B., Aït-Kadi A., J. Applied Polymer Science, 87 (2003), p. 433.
[2] Prime, R.B., in: Thermal Characterization of Polymeric Materials. Academic Press, San Diego, (1997) p. 1636-1646.
[3] Vyazovkin, S., Lesnikovich, A. 165 Thermochimca Acta (1990), p. 273.
[4] Vyazovkin, S. Thermochimca Acta 194 (1992), p. 221.
[5] Vyazovkin, S., N. Sbirrazzuoli. Macro- molecules (1996) 29, p. 1867.

紫外光を使用した粉体塗料の効果

はじめに

今日、粉体塗装技術は、各種材料(木材、プラスチック、金属など)に幅広く応用されています。

そのコーティングの優れた特性に加えて、この使用によって環境面での重要な優位性が得られます。例えば、液体塗料とは異なり、溶剤を使用しないので、大気中に放出される揮発性有機化合物(VOCs)の量は無視できるほどです。

粉体塗料は通常、塗装される部品にスプレーされてから硬化します。そのときの硬化または架橋プロセスは、オーブン内での熱処理(一般的に約180℃)またはUV 光のいずれかによって実施されます。UV 硬化は、温度に敏感な材料(木材lまたはプラスチック製品など)に塗装できるという大きな利点があります。

実際に、IR/UV 複合型処理ラインが粉体塗料およびUV 硬化に使用されています。IR ゾーンでは、赤外線の影響により粉体が「溶解」し、塗装される下地の上に均一な薄膜を形成し、それからUV ゾーンで数秒または数分以内に硬化します。

この論文では、粉体塗料のUV 硬化挙動を調査するためのDSC の使用方法について説明します。

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DSC によるプラスチック成形品の品質保証・パート1:受入原料

本項では、プラスチック成形品の品質管理にDSC が使用できることを分かりやすく説明する実践的な応用例をいくつかご説明します。これは、材料の同定とバッチ間の差異を検出するために、どのようにDSC を使用できるかを説明するものです。色材と安定剤などの添加剤の影響も取り上げます。

はじめに

受入れるプラスチック成形材料の品質は、融解または溶解時の流動特性、特にメルトフローインデックス(MFI)または溶液の粘度インデックス(VI)の測定の評価しか行なわれないことがほとんどです。こうしたレオロジー的方法によっては材料の同定はできず、また融解挙動や硬化挙動についての情報は何も得られません。しかし、融解・硬化挙動は、製造する成形品の特性に直接的な関連性を持つものです。本項では、実践的な例を用いて受入材料の品質管理へのDSC のいくつかの応用例を取り上げたいと思います。

このシリーズのパート2 では、プロセス管理と生産管理へのDSC の利用について取り上げます。

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ノウハウ